第9章 すれ違い
『……ごめん、遅くなった』
渋滞があって予定より到着が遅れた。既に待ち合わせの場所にはジンの車。取引の時間まではまだあるが……。
「随分余裕なんだな?」
『……もともと今日は任務じゃない日なのよ。しょうがないでしょ』
本当は明美と夕食まで一緒にいる予定だったのに、今朝ジンからきた連絡によってキャンセルせざるを得なかったのだから。今度埋め合わせしてくれればいいから、と言ってくれた明美。本当になんていい子なんだろう。
険悪な雰囲気にウォッカの表情が強ばる。ウォッカも人が良すぎるんだ。わざわざ毎回運転を買ってでるなんて……。
「チッ……行くぞ」
そのまま歩き出すジンの後を追いかける。今日の相手はそこそこの頻度で取引している組織で、私も何度か会ったことがある。今回は……銃の取引だったかな……。
「お待ちしておりました」
「……ああ、」
相手はもう取引場所にいた……いつもより護衛が多い。こちらも幹部3人だから、当たり前か……。それでも、胸騒ぎがする。
「……それで、例のモノは?」
「もちろん、ここに」
そう言って開けられたケースの中にはライフル。しかもこれは……。
「アメリカで開発された、最新の物です……手に入れるのに苦労しました」
「そいつはご苦労なことだ」
「……それではこちらを」
護衛が1人、ライフルが入ったケースを持って前へ出る。ウォッカがお金の入ったケースを。それらを交換した。
……なんだろう、この違和感は。
取引自体はいつもと変わらない。それなのにどうしてこの相手は、いつもより余裕そうなんだ……?
「それでは……また」
「……ああ」
その時背後から感じる僅かな殺気。振り返ると……銃口が見えた。
『……ジンっ』
思いっきりジンの体を突き飛ばした。瞬間脇腹に激痛が走る。体を捻ったから急所は外れたはず……だけど結構深くいったな……。
拳銃を抜き、発砲したヤツに向けて撃った。そのまま倒れて動かなくなる。
「なっ……!」
取引相手の顔が引き攣る。
「マティーニ!」
ウォッカが駆け寄ってくる。
『だ、いじょう、ぶ……』
傷口を押さえる手は血で真っ赤。
「……死ぬ覚悟はできたか?」
ジンの声からは殺気が溢れている。発砲音が続けざまに聞こえ……やばい、血を流しすぎか……。
そのまま意識が途切れた。