第80章 漆黒の特急
「え……」
『ほら……さっきの推理クイズでこの部屋の人と入れ替わったでしょ?たぶんその時に』
そう言ってドアノブに手をかける。
「待って!!」
コナン君の大きな声に動きを止めて視線を向けた。その浮かべられた表情に1番濃く出ているのは焦り。
『……なあに?』
「そ、それってあとじゃ駄目なの?!今は逃げた方がいいんじゃないかなっ?!」
『探したらすぐに出るから大丈夫よ』
「でも……でも!火事が起きてるんだよ?!」
『……心配なら先に行って。すぐ追いつくから』
「僕1人は怖いなぁ……!亜夜さんと一緒にいたいなぁ!」
そう言ってコナン君は私の手を掴んでぐいぐいと引っ張る。よくもまあ、ここまで子供らしくできるものだ。慣れ……なのかな。本当は高校生なのに。視線を合わせるためにしゃがみこんでその瞳を見つめる。
『ねえ、この部屋に何かあるの?』
「いや、その……」
『それならいいでしょ』
「あ、駄目!」
『どうして?』
「えっと……そう!この部屋、被害者のおじさんの部屋だし!」
『殺人現場はここじゃないでしょ?』
「……」
『それに、コナン君さ……さっきこの部屋から出できたでしょ?』
「え……見てたの?」
『たまたまね。その後、電話してるところも』
「っ?!」
ただでさえ大きな瞳が更に見開かれる。全く予想していなかったということだろう。
『ねえ、コナン君……貴方は一体何者なのかしら?』
挑発するように聞くとコナン君の唇が音を発さずに動く。暴かれるのは慣れていないようだ。そして、ゆっくり目を閉じて……次に開かれた目は、一瞬にして暴く側の目に変わっていた。
「僕も知りたいなぁ……亜夜の正体」
『何か不審なところでもあったかしら?』
「思い出したんだ。8号車のB室のドアを開けた時に亜夜さんが言ってたことを」
『……』
「歩美ちゃんに言ってたよね?あの部屋のドアを開けた時にさ……妙なにおいがしたって。それって硝煙のにおいのことじゃないの?」
『さぁ……嗅ぎなれないにおいだとは思ったけど。コナン君達だって気づいたんでしょ?それだけじゃ疑うのには足りないんじゃないかな?』
表情はどうにか取り繕うが、射抜くような視線は変わらない。そして、ため息をついたのとほぼ同時に。
後ろから聞こえた爆発音。