第80章 漆黒の特急
さて、哀ちゃんはどこにいるだろうか。工藤有希子と一緒に行動する……ことはない気がする。だとするなら、どこかに隠れるか?でも、どこに?子供達の所へは戻らないだろうし、トイレにこもり続けるのも……なら、どこかの客室か?でも、空いている部屋なんて……
『あ……』
一部屋だけある。殺された被害者の部屋だ。あの推理クイズのカードが来たことによって部屋を移ったから、あの被害者がいるのは8号車のB室。蘭ちゃん達は子供達と一緒に6号車にいる。ならば、7号車のB室は無人。
そうとなれば、考えが当たっていなくても確認しておく必要がある。誰かがいた場合は……忘れ物をしたとでも言えばいい。人の目がないことを確認した……ところまではよかったのだが。急に車内アナウンスが流れ始めた。
「緊急連絡です!只今、当列車の8号車で火災が発生いたしました!7号車と6号車のお客様は念の為、前の車両へ避難して頂きますようお願いします!」
8号車から流れてくるであろう人の波を避けるために端の方へ寄った。直後、人が大慌てで走り込んでくる。でも、同じように流れ込んできた煙のにおいは、火事のような何かが燃えるにおいとは違う。
『ここまでするか……っ』
間違いなくベルモットとバーボンが仕掛けたものだ。
でも……でも、大丈夫。哀ちゃんはきっと無事……そう信じるしかない。
とりあえず目的の部屋へ……と、視線を向けると小さくそのドアが開いているのが見えた。誰がかと思えばそこから出てきたのはコナン君で。部屋から出てきて早々にどこかへ電話をかけ始めた。その様子をバレないように見続ける。
「母さんやべぇぞ!灰原がどこにもいねーんだ!母さんの所に行ってねぇか?!」
その言葉に背筋が冷たくなった。
「じゃあ、前の車両に行ってみっから母さんは作戦通り上手くやれよ!」
そう言ったくせに電話を切ってもそこから動き出そうとしない。だから声をかけることにした。
『コナン君、まだここにいたの?』
「えっ、なんで亜夜さんがここにいるの?蘭姉ちゃん達と一緒じゃないの?」
『哀ちゃんが見当たらないから探してたのよ。それより早く行った方がいいんじゃない?』
「そ、うだね。じゃあ亜夜さんも……」
『ごめん、私この部屋に落し物しちゃったみたいでさ』
そう言ってB室のドアを指さした。