第80章 漆黒の特急
「誰だ?お前……」
「……」
「誰だって聞いてんだよ!」
真純ちゃんが声を荒らげているのが見えて咄嗟に身を隠した。耳を済ませて会話を聞き漏らさないようにしながら様子を伺う。
「ふっ……相変わらずだな、真純……」
聞こえてきたのは、赤井の声。
「しゅ、秀兄……本当に秀兄なのか?」
「……」
「でも何で……?秀兄は死んだって……」
真純ちゃんが詰め寄ったその時、バチッと大きな音がして彼女の体が倒れかけた。
「その答えが聞きたかった……」
あの子をどうする気なのか……思わず出て行こうとしたが、反対側から車掌の声が聞こえた。
「ど、どうかされましたか?」
「ご心配なく……妹は貧血気味なので」
「そ、そうですか……」
車掌の声と気配が消えたのを確認して、その身をヤツの前に現す。すると赤井は大きく目を見開いた。
「……なぜ」
『こっちのセリフよ。その子どうするつもり?』
聞こえてきた声は赤井のものだが、憎々しげにその顔が歪む。
『その子のことだけじゃない。貴女、何を企んでるの……ベルモット?バーボンまで巻き込んで?』
「チッ……」
『私との取引、忘れたわけじゃないわよね?』
「……邪魔をするな」
『……私は傍観者よ。今のところはね』
「……」
『でも、もしあの子を消すのならこちらにだって考えがあるわ。ちょうど一緒に来てるし……貴女のエンジェルとね』
「っ!」
『まあ、あの少年も関わっているようだし……貴女の作戦が上手くいくとは思わないけど。それじゃあ、途中で考えが変わることを願ってるわ。その子のことも傷つけちゃ駄目よ、蘭ちゃんが悲しむだろうから』
そう言っておけば真純ちゃんを傷つけることはしないだろう。ベルモットに背を向けて別の車両へ移る。
やっぱり哀ちゃんのそばにいたい。でも、どの部屋にいるだろうか……スマホを取り出してみたものの、連絡先も知らないし。画面を眺めているとタイミング良く蘭ちゃんから電話がかかってきた。
『もしもし?』
「あ、亜夜さんは繋がった……哀ちゃん見つかりましたか?こっちの方じゃ見つからなくて……」
『……そう。私の方にいるかもしれないからもう少し探すわ。他のみんなは一緒?』
「はい!」
『それならよかった。じゃあまた後で』
みんな一緒ならば安全だろう。後は哀ちゃんだけだ。