第80章 漆黒の特急
蘭ちゃんが紅茶を入れてくれたのでそれを受け取って飲む。
『真純ちゃんも座ったら?』
ずっと立ちっぱなしの真純ちゃんに声をかける。
「え?ああ、大丈夫」
ニカッと笑いながら彼女もカップに口をつけた。
そして、またドアが開く。
「あれ?」
『あら、また来たの?』
「あ、あのさ……ここって本当に……」
「8号車だって言ってんでしょ!ガキンチョは部屋に戻って大人しくしてろっての!」
園子ちゃんが追い返す。諦めたようにドアが閉められると、誰かのため息が聞こえた。もう彼が気づくのもすぐなんじゃないかな……たぶん。
その考え通りかまたすぐにドアが開いた。
「ちょっとあんたねぇ……」
「この部屋ってさ本当の本当は7号車のB室だよね?」
「だーかーらー……」
「園子姉ちゃん達も貰ったんでしょ?これに似たカードを。んで、それに書いてある指示通りにしたんじゃない?」
その言葉に園子ちゃんの顔が若干強ばった。
「この部屋にいた被害者の人と一時的に部屋を入れ替わって、訪ねてくる探偵達を騙して迷わせろって……違う?」
もう隠すのは無理みたいね。そう思って肩をすくめた。
「すっごーい!さすがコナン君!正解だよ!」
蘭ちゃんがカードを受け取った経緯を説明する。毛利小五郎は食堂車にいるようだ。このクイズの解説をする予定らしい。
このままでは、と思ってコナン君の後ろにいた子供達を部屋の中へ招き入れる。相変わらず何かに怯えているようで、哀ちゃんはコナン君の背中にくっついている。
「それより初めましてだよな?」
「え?」
「君だろ?灰原って子」
「あ、ああ……」
「君とは一度、お話したかったんだよね……」
真純ちゃんが哀ちゃんに近づいたその時。ドアの方から視線を感じて顔を上げた。
「誰だ?!」
ほぼ同時に真純ちゃんが声を上げる。そしてドアを開けて周囲を確認し始めた。
「な、何?」
「今、扉越しに誰かが覗いてたって思ったけど気のせいか?」
誰もいなかったようで真純ちゃんはドアを閉めた。が、私の方を見つめて口を開いた。
「亜夜さんも見てたよな?」
『……え?』
「そういえば急に顔上げたよね?何か見たの?」
『……何も見てないよ。でも、視線を感じたから誰かが覗いてた可能性も否定できないわ』