第78章 甘い※
ジンside―
取引が終わりアジトの駐車場に戻った。窓から見えたヤツの姿に思いっきり舌打ちをする。運転しているウォッカが少しばかり肩を揺らした。
上下関係の理解できていない馬鹿と取引するのは無駄に疲れる。それをわからせるために弾を無駄に消費してしまうのも。取引相手の男の気色悪い悲鳴がまだ耳に残ってる。
ただでさえ虫の居所が悪いのに、いけ好かないヤツがいる。しかも、ヤツは俺が戻るのを待っていたようで、車をおりるとこれまた気色悪い笑みを向けられた。
「お疲れ様です」
「……」
その声を無視してタバコに火をつける。でも、ヤツは立ち去ろうとしない。
「バーボン、何の用だ」
「ジンに話があって」
ウォッカの問いにニコニコと答えるバーボン。ウォッカに視線を向ければ察したようで、先に建物内へ入って行った。重すぎる沈黙を破ったのはバーボンだった。
「先日のこと、謝ろうかと思いまして」
「……あ?」
「米花百貨店にわざわざ来ていただいたようで……お手数をおかけしました。あの男の死にどうしても納得できなかったものですから」
聞いてもいないことをベラベラと話し出すコイツに苛立ちがつのる。タバコを地面に落として、靴で踏みつけてその火を消した。
これ以上話を聞く必要もなさそうだ。そう思ってバーボンの横を通り抜けようとしたのだが。ほんの微かに、アイツの香水の匂いがした気がした。
「たまたま会ってここまで送ってきたんです」
「……」
「それと、本気で彼女のこと落とすつもりなので」
バーボンを睨みつけるがニコニコと笑ったまま、口から出る言葉は止まらない。
「彼女はああ見えて優しいですから……きっと、自ら貴方から離れるようなことはしないでしょうけど。貴方を思う気持ちがなくなったとしても」
「……」
アイツの気持ちが向けられている自覚はあるが、最近は言葉にして言われなくなった。それが何故なのか、理由を聞くこともしていない。
「……アイツの何を知ってる」
「何をですか……もしかしたら、僕にしか話してくれないこともあるかもしれないですね。彼女が立ち直れなくなりそうな時、そばにいたのは僕なので」
その言葉に抑えきれなくなってバーボンの胸ぐらを掴んだ。
「てめえ……」
「だって事実でしょう?」
否定、できない。