第78章 甘い※
「死にたくねえなら手を出すな」
吐き捨てるように言って手を離す。そして、出入口へ足を向けた。
「女性には優しくするものですよ」
鼻で笑うようなバーボンの声を背に受けて。
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伸ばされた手を掴んで引き寄せる。抱き締めれば、背中を撫でられた。それだけなのに気持ちが緩んでいく。取引のことも、あの野郎のことも忘れるわけじゃねえがそれでも気は楽になる。
だが、寝るように促されたところまではよかったのだが。
ベッドに寝転がったところでコイツの首筋に残るキスマークに気づいた。あの野郎……どうしようもないくらいの怒りが湧いて、上書きするようにその跡に吸い付き噛み付いた。少しだけ血の味がする。そして、抵抗しないように腕を押さえつけて首を締めた。
本当にこのまま……と思いかけたが、去り際にバーボンに言われた言葉を思い出して手を離す。
優しくする……ならば、そう抱いてやろう。
いつも以上に愛撫に時間をかけ、ナカに入れても身体を撫でて唇を落とす。やはり、そうした方が感じるのかいつもより反応がよかったように思う。
『どっちもかな……ジンが抱いてくれるなら、どんな抱き方でも嬉しい』
酷くされるのと優しくされるのと、どちらがいいかと聞いたのに。どちらもとへらりと笑いながら答えられて少なからず気持ちが浮ついた。それを表に出すことはしないが。
「……絶対離れるなよ」
『ん……ジンが必要としてくれるなら、そばにいる』
眠いのかぼんやりとした返事が返ってきて、すぐに寝息が聞こえてきた。コイツの穏やかな寝顔とは裏腹に浮ついた気持ちは沈みそうになり、俺の感情は荒れていた。
バーボンの、言った通りなのか。俺のそばにいるのはコイツの意思じゃないのか。そんなこと許すわけがねえだろ。
絶対に奪わせない。コイツは俺のものだ。二度も、失ってたまるか。
感情を押し込めて髪を梳いてやればくすぐったそうに身をよじる。そんな姿を見るのは、見ることができるのは俺だけでいい。
「……」
コイツに向ける感情は言葉にしようにも、完全に言い表すことはできない。それほどまでに大きすぎる感情を抱いている。もう自制することも忘れてしまった。
「亜夜」
せめて、それくらいはと小さく呟くようにして呼んだ名前は、きっとコイツの耳には届いていないだろう。