第77章 ただの知り合い
窓の外に視線を向けると、ちょうど白い車が止まった。それを見て立ち上がる。
「やっぱり仲いいんだね」
『そんなこと……』
「でも、車見ただけで立ち上がったよね?」
『……それだけで仲がいいと判断するのはどうかと思うな。食事に行った時に乗せてもらったのを覚えてただけだよ』
そう言って財布を取り出すと、蘭ちゃんが立ち上がった。
「あ、お金いいですよ。たぶんお父さんもそのつもりでお金置いてったし……」
『でも……』
「いいんです!ね?」
『そう、ありがとう。それじゃあ、毛利さんにもよろしく伝えてね』
「はい!またお話しましょうね!」
蘭ちゃんと梓さんに頭を下げてポアロを出た。コナン君の視線が痛いな……せっかくの癒しの場所なのに気が抜けなくなった。
「どうぞ」
そう言って助手席のドアを開けるバーボンは、ずいぶん楽しそうだ。誰のせいでこんなことになったと思ってる。そして、動き出した車の中、わざと大きくため息をついた。
「どこへ行くんですか?」
『……このまま帰っていいわ』
「わかりました」
何もなかったかのように話し始めるバーボンに、もう一度大きくため息をつく。
『なんでよりによってあの店なのよ』
「毛利小五郎の事務所の下にあるわけですし、近づくにはうってつけでしょう。僕も驚きましたよ。まさか貴女が来るなんて」
『……気に入ってるのよ。悪い?』
「いえ。ただ、毛利小五郎やその周囲の人間とも仲が良いようですね」
『……』
「貴女があんなふうに笑うのは初めて見ました」
どんな顔で笑ってたんだろうか……まあ、怖がらせないようにとは思っているけど。
『くれぐれも正体がバレないように気をつけるのね』
「もちろん、わかってますよ」
『まあ、貴方1人のことがバレるぶんにはまだいいけど……私まで巻き込むようなマネはしないで』
「そんなことするはずが無いでしょう」
きっとバーボンが警戒しているのは毛利小五郎だ。まだ、それより厄介な存在のことには気づかないだろう。それでも、今はあの少年のことを言うべきではないか。
『あと、変なこと吹聴しないで。私と貴方はただの知り合い。口説くとかそういうのは……』
「つれないこと言わないでくださいよ。貴女のことが好きなのは本当なんですから」
『諦めてって言ってるでしょ』