第77章 ただの知り合い
「じゃあ、諦めさせるのを諦めてください」
『しつこい男は嫌いよ』
そう言って窓の外を眺める。やっぱり……遠回りしてるな。そんな気はしてたけどさ。
『……シェリーの情報は何か手に入った?』
「あいにくですが、まだ何も」
『何かわかったら絶対に教えてよ』
「……ええ」
倍くらいの時間をかけてアジトへ戻ってきた。さっさとシートベルトを外してすぐにおりようとしたのに、手を掴まれてそれを阻まれる。
『……何?』
バーボンは口元に笑みを浮かべたまま、私の手にキスをした。引っ込めようにも力が強くて手が引けない。
『離してよ』
「どうしたら本気だと思ってくれますか?」
『は……?』
手を掴んでいるのと逆の手が私の肩に回って引き寄せられる。
『ちょ、バーボン……』
「本気なんですよ」
『っ……』
「できることなら人目を気にせずにキスをしたいし、時間を忘れて貴女を抱きたい……ドロドロに溶かして僕のことしか考えられないように」
『冗談、やめて……』
「まだそんなこと言うんですか」
バーボンの声が冷たくなる。後頭部に手が回され、ハッとした時には既に唇を重ねられていた。
逃げたくてバーボンの体を押すけど、悪いし頭も肩も固定されてるから体勢が悪いし力も入らない。その間にバーボンの舌は私の歯列を割って口の中へ入り込んでくる。私の弱いところを攻めるようにして、舌が動かされた。
頭がぼーっとしてきて、体の力も抜けかけたところでやっと唇が離れる。そして、今度は首筋に顔が寄せられて、肌に吸いつかれた。ジンの跡が薄くなってきた首筋に。
『バーボン……っ!』
「……僕なら救ってあげられるのに」
少しだけ悲しそうに笑うバーボン。
『救うって、何?』
「僕のものになってくれたら教えてあげますよ」
『っ……冗談じゃないっ』
バーボンの体を押し退けて急いで車をおりた。そして振り返ることなく建物内へ入る。自室までの道を急ぎ足で歩くとヒールの音が強く響いた。
部屋に入り、すぐにバスルームへ向かった。さっきの出来事を全てを洗い流してしまいたくて。鏡に映る私の首筋にはバーボンのキスマークがくっきりと浮かんでいる。
せっかくの休みなのに、癒されるどころかかえって疲れた。ポアロへ行く頻度も少し減らした方がいいだろうか……こんなこと、なんで私が悩むのよ……。