第75章 亡霊
今から行く。そうバーボンにメールをして彼が滞在してるホテルへ向かう。駐車場に車を止めて、迷いなくその部屋へ。
ドアをノックすると部屋の中がバタバタと騒がしくなった。そして、その音が止むとドアが開かれる。
「マティーニ……なぜここに?」
『さっき連絡したじゃない』
「え……ああ、すみません。気づきませんでした」
『入っても?』
「……少し待ってください」
一度ドアが閉まる。数分後、ドアが開かれた。
「お待たせしました。どうぞ」
部屋に入ると、前とほとんど変わらない部屋。椅子を出して腰掛けると、バーボンはベッドに座った。その顔色はあまり良くないように見える。
『……寝てないの?』
「まあ……」
歯切れの悪い答えが帰ってくる。目の下には隈があるし、何となく反応も鈍い。
『はぁ……』
これじゃまともに会話できるかわからないし……立ち上がってバーボンの肩を押した。
「……おや、珍しいですね」
『勘違いしないで。寝なさい』
「……このくらい、大丈夫です」
『いいから』
強めの口調で言うと、観念したようにバーボンの力がふっと抜ける。
「じゃあ……30分だけ……」
『はいはい。起こしてあげるから』
目を瞑ったバーボンの髪をさらさらと梳く。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
『……さてと』
どうしよう……寝始めてすぐはきっと気配で起きてしまう。下手に動かない方がいいか。こんなに優しくしてあげる必要はないんだけど。
日付けが変わるまでまだしばらくあるし、起きるまで寝かせておこう。私もなんだか眠くなってきた、かも……。
いつの間にか落ちていた意識。目を何度か瞬かせるとバーボンの顔が覗き込んでくる。
「起きましたか」
『ん……何時?』
伝えられた時間は記憶より1時間程経っている。
『寝れた?』
「おかげさまで」
先程に比べていくらかマシになった顔色。
「それで、何の用ですか?」
『話……というか、まあ?』
「……なんでしょうか?」
体を起こし、ふっと息を吐いてバーボンを見据える。一瞬にして空気が張り詰める。
『シェリーのこと』
「……貴女にはその話は行っていないはずですが」
『今日たまたま聞いたのよ。それで』
「申し訳ないですが、貴女に話すことはありません」
『……は?』