第75章 亡霊
ウォッカは電話を切って車を動かす。そして、百貨店の向かいにつけた。
スマホを開いてSNSを漁ると、ちらほらと話題に上がりつつある。ジンとウォッカにそれを見せた。
「爆弾でフロアを占拠してるのか……」
「ええ、どっかの馬鹿がやらかしてるらしいですぜ……なんでも、要求は人捜しとか……」
『……まあ、犯人は素人でしょうけどね。それと、たぶん1人なんじゃないかしら』
「え?どうしてそんなことが……」
ウォッカの声に肩をすくめる。
『短時間で情報が漏れすぎだし、そもそも携帯を取り上げることもしてないし……』
たかが人捜しで爆弾か……当人にとってはたかがではないのかもしれないけど。
爆弾犯が捕まるか、爆弾が爆発するか……どちらにせよ、こちらには都合がいい。スナイパーの殺気は人混みに掻き消されてたとえ気づいて逃げようとしても、身動きは取りづらい。キャンティやコルンも狩りやすいだろう。
「ねえ、彼はこの事知ってるの?」
「彼……誰の事だ?」
「バーボンよ……組織をうらぎったシェリーっていう科学者捜しに動き出したって聞いたけど……」
後部座席の声にスっと背筋が伸びた。バーボンはこの件に関しては知ってるも何もあの変装は本人だし……いや、それよりも。
シェリーを捜し始めたことは聞いてない。口ぶりからするにジンも知っているようだ。それなのに、私には話が回ってきていない。だとすると、私に話が行かないように根回しをしているのはおそらくベルモットだろう。
ここでその話を聞けたのは運が良かった。どんな理由があってもシェリーは……志保には絶対手は出させない。
「……問題の男が赤井だつたとしたら、ヤツはそれ見た事かと鼻で笑う。そんなヤツの面は拝みたくねぇからな……」
赤井が死んだ今、そんなことは起こりえないのだけど、バーボンが笑う様子を想像するのは難しくない。散々煽った挙句、にっこり笑って去っていくだろう。
しばらくして百貨店の出入口の人混みが大きく動き始めた。
『爆弾犯は捕まったのかしら……』
「そのようですね……」
なら、もうすぐ出てくるだろう。さて、どうしようか……万が一の時は止めてくれって言われたけど、今の空気でそんなこと言い出したら風穴が開くのはたぶん私だ。
「いたよ!いたいた!」
ジンのスマホからキャンティの興奮した声が聞こえてきた。