第75章 亡霊
翌日の昼前。アジトの駐車場で待っていると、キールが現れた。
『呼び出してごめんね』
「いいわ……それでも、理由を聞かせてもらっていいかしら?」
『……とりあえず乗って?』
そう言ってジンの車を指さす。私が先に歩き出すと、キールも後ろからついてくる。キールを後部座席……ジンの隣に座らせて、私は助手席へ。
『目撃情報は入った?』
「米花町でな……末端に張り込ませてる」
「それで、どちらへ行きやしょうか?」
舌打ちもため息もどうにか堪える。バーボン……わざわざメールを送ったにも関わらず、まだ懲りずに町中をうろついているのか。
「米花百貨店だ……そこへ行け」
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車内の空気はものすごく重い。赤井秀一らしき人物が百貨店内に入ったという情報を得て、そこの入口が見える路地に車が止まる。
「ねえ、一体いつまで待ちゃいいんだい?」
ジンのスマホからキャンティの声が聞こえる。彼女の性格だ、待たされるのは嫌だろう。
「もしも亡霊じゃないとわかったらその時は……お前に亡霊になってもらうぞ、キール」
ジンがキールに拳銃を向ける。だが、キールは冷静そうだ。
「亡霊よ、生きてるわけないわ……赤井秀一は私がこの手で撃ち殺したんだもの。ジン、貴方の目の前でね」
「目の前じゃねえ、モニター越しだ」
背後で繰り広げられる会話に耐えきれず、細くため息をついた。ジンが疑い深いのは今に始まったことじゃないけど、ここまでだっけ……相手が赤井秀一だからなのか?
「……天敵が消えたことを素直に喜んだら?」
「ああ。嬉しくてゾクゾクするぜ……ヤツが生きてるとしたら、もう一度殺れるんだからな……」
今度は後部座席に視線を向ける。これはまた……心底嬉しそうに笑みを浮かべるジン。
ウォッカの方をチラリと見ると、小さく肩をすくめられた。ここまで来たら止められないな……微かなバイブ音がして、ウォッカが自分のスマホを取り出す。
「ウォッカ、車を百貨店の向かいにつけろ!」
ジンはそう言ったが、ウォッカは車を出そうとしない。
『どうかした?』
「早く出せ」
「あ、いやそれが……地下の出口に張り付いてるコルンの話によると、あの百貨店の中で何か起きてるらしいですぜ?」
どうやら、機動隊と爆発物処理班が店内に入っていったらしい……ってことは爆弾でも仕掛けられているんだろう。