第75章 亡霊
とある任務の帰り道。車内にはジンとウォッカと私。
「何?赤井秀一を見かけただと?」
ものすごく不機嫌な声でそう聞くジンに、私は後部座席でこっそり頭を抱えた。
「ほら、この前ありましたよね……米花町の帝都銀行で強盗事件が」
その裁判が始まるとかで、あの日の映像がニュースで流れたらしい。そこに映ってしまっていたらしい……赤井秀一に変装したバーボンが。
「と言っても、どうせ他人の空似でしょうけど……」
ウォッカはそう言うが、ジンは無言だ。車内の空気が……というか、ジンの殺気がやばい。
あれはバーボンの変装だと言ってしまえばこの件は終わるのだろうけど、バーボンに黙っていて欲しいと言われたし……さて、どうしたものか。
赤井秀一は来葉峠でキールが始末したし、それを私達は見ている。モニター越しではあったけど……。
「キールを呼べ」
『え?』
ジンが言うには……シェリーと赤井秀一、そしてキールが関わった事件は米花町と杯戸町で起きている。それぞれは目と鼻の先……それが偶然だとは思えないらしい。
「おい」
『……わかったよ』
渋々スマホを取り出して、キールの番号をタップする。数コールの後、キールの声が聞こえてきた。
「……もしもし?」
『ごめんねキール。こんな時間に』
「いいわ。余程のことなんでしょう?」
『まあね……ちょっと聞きたいことがあって』
「聞きたいこと?」
『直接話したいの。明日の朝、アジトまで来てくれる?』
「……ええ、わかったわ」
『それじゃ、また』
電話を切ってジンの方へ顔を覗かせる。どうやら、誰か宛のメールを打っているところで。
『……誰宛?』
「キャンティとコルンだ……亡霊は確実に狩らねえとな」
おっと……これは予想以上にまずいのでは?
私もメールの作成画面を開く。相手はバーボン……最悪の場合、キャンティかコルンに殺られてしまうだろうから、変装した姿が見られたことは知らせておかないと。本当にそうなってしまった場合、後味が悪い。
自室に戻ってからもう一度スマホを開く。しかし、メールの返信は一向に来る気配がない。
『チッ……!』
大きく舌打ちをしてスマホをベッドに叩きつけた。全くジンもバーボンも……どうしてそこまで死んだ人間にこだわるんだろう。
キールは身の潔白を証明したはずなのに……心の中で同情した。