第73章 隠す者達
少し強めに服の裾を引かれ、髭の男から目を逸らした。服を掴んでいたのは歩美ちゃんだったが、光彦君と元太君の視線も向けられている。
「亜夜お姉さんも一緒に行こうよ!」
『えっと……どこに?』
「なんだよ、聞いてなかったのか?」
「博士がご飯奢ってくれるんです!亜夜お姉さんも行きましょうよ!」
『あー、ごめんなさい。この後はちょっと……』
3人から残念そうな声が上がるが、あまり一緒にいるのはよくない。もし、その場面を組織の人に見られたらまずい。特に、志保。それだけは絶対に避けないと。
『また機会があったら誘ってほしいな』
「じゃあ次は絶対だよ!」
「約束だからな!」
「忘れませんからね!」
そう言う子供達の頭を撫でてあげると、3人は嬉しそうに笑う。
視線を上げると、そこにはもうFBIの姿はなかった。
『あ、そうだ』
振り返ってコナン君に向き合う。
『この間、新一君の家にお邪魔しちゃったの。蘭ちゃんから聞いたかな?』
「うん。聞いたよ……新一兄ちゃんにも言ってあるから大丈夫」
『そう。ならよかった』
「亜夜さんもいろんなこと知ってたって驚いてたよ!」
『あれは偶然よ。沖矢さんがいなかったら……』
沖矢、の名前に哀ちゃんが少しだけ反応した。警戒してるのだろうか……何かされたりしてないでしょうね?そうだったら一発入れてやるから。
コナン君と哀ちゃんの頭もそっと撫でる。ちょっとムスッとしたコナン君と……哀ちゃんは何ともいえない表情をしている。
『それじゃあ、私はこれで』
阿笠さんと子供達にそう言って別れた。さっきからスマホの通知がうるさいのだ。
子供達の姿が完全に見えなくなったところでスマホを取り出す。タイミングよくバーボンから電話がかかってきた。
『……今どこ』
「適当に歩いてます」
『あの顔で?』
「いえ、素顔ですよ」
『そう……話したいことがあるから』
車を止めた駐車場を教えて電話を切った。そして、近くにあったコンビニに入ってお金をおろす。
『あ』
ポケットに突っ込んだままだったミルクティー。あんなことがあったから忘れていた。もうすっかり冷えてしまっているし……いいや、バーボンに押し付けよう。
早足で駐車場へ向かう。頭の中でバーボンへの文句を考えながら。