第73章 隠す者達
『……ったく、何をどう考えたらあの状況で拳銃を使うって答えになるのかしら』
「仕方ないでしょう。子供が人質になったんです」
『近くにFBIの女もいたでしょ?』
「最初はいましたけど……どうやら途中で気絶させられていたようで」
『だからって……もう』
運転はバーボンに押し付けた。私は助手席でタバコを取り出す。普段バーボンといる時はあまり吸わないんだけど、今日ばかりは腹が立ったから許可もとらずに火をつけた。
『……それで収穫は?』
「様子からして、彼女はあの男が死んだと思っているようです」
『そう。なら……』
「いえ、まだまだ。あの男を知る人間は他にもいますから」
『……はぁ』
「もし、それっぽい人物がいたら聞いてみてください。確か、あの男には弟と妹がいたはずです」
妹……は会ったことあるな。スコッチがギターを教えたあの子。
『そう言うなら、今日みたいなことはやめてくれる?』
「ええ、わかりました」
信号で車が止まる。短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
「ところで、銀行の前で一緒にいた男性と子供とは……」
助手席の下から拳銃を取り出して、バーボンのこめかみに突きつけた。
『それ以上聞かないでもらえるかしら』
「……すみません。気に触りましたか」
『わかってるなら黙りなさい』
吐き捨てるように言って拳銃をおろす。
駄目だ、私も気が抜けてる。下手したら巻き込んでしまう……それだけは絶対に避けなければ。志保の居場所は守らなきゃ。
バーボンの襟に手を伸ばし、取り付けた盗聴器を外す。そこからしばらくして、バーボンが滞在しているホテルの近くに車が止まった。
「それではまた」
バーボンが車をおりて去っていくのを見送って運転席に移る。
『はぁ……』
これからどうしようか……出会ったのは偶然だったとはいえ、あれをバーボンに見られてしまったのは痛い。子供達が危険な目に合うのは困るし、私のことがバレるのもまずい。
コナン君はまだしも……志保にバレるのは時間の問題だろうか。名前も声も変えてないし。バレればコナン君にもそれは伝わるし、そこから更にFBIにも……ほんの息抜きだったこの姿でも警戒をしなければならないようだ。
隠すのも楽ではない。きっとあの2人も苦労してるはずだ。
私は見守ることしかできない。あの2人に危険が及ばないように。