第7章 まだ見ぬ者たち
ある男side―
「ちょっと聞いてるの?」
「……ああ、すまない。考え事だ」
「もう……これ、貴方が言ってた資料」
そう言って渡される資料には……。
「今更その事件の資料なんてどうするの?」
「少し……気になることがあってな」
数年前に日本で起きた爆発事件。犯罪組織だったようで、密輸など繰り返していたらしい。海外との取引もあったことから、FBIも調査したが、いまだに何一つ証拠が出ない。
「今回潜入する組織が関わった可能性がある。それと……」
先日、日本にいるFBIの捜査官から送られてきた写真を見せる。
「彼女は?」
「以前は爆発した組織に所属していたらしいんだが、最近は例の組織と行動しているようだ」
「要は被疑者ってことね。何か恨みでもあったのかしら……」
「さあな……どちらにしても、今の段階では証拠がなさすぎる」
「そうね……にしてもあえて撮られたって感じ」
「そこが妙に引っかかる。写真を送ってきたヤツはまだ無事だしな」
隠し撮りにも関わらず、目線はカメラをとらえている。偶然目線が合ったのか、それとも気づいているのにわざと撮られたのか。それなら、どうして……。
理由など考えてもわかるわけがない。ただ、この女が危険人物であることは十分理解できる。
「何、心配するな。死ぬようなヘマはしないさ」
「そういう問題じゃないわ!貴方のことは信じてるけど……それでも心配なのよ」
顔を曇らせる彼女。つい最近まで恋人だったが、潜入捜査が決まり別れを切り出した。万が一、素性がバレたら巻き込んでしまう可能性もある。
それに、潜入するためには変に目立ってスカウトされるより、さっさと組織の人間に近づいた方が手っ取り早い……末端の女に近づいて恋仲になれば、必然的に組織に関わるようになるだろう。
……たとえ、本気の関係でなくても、2人の女を同時に愛せるほど、俺は器用ではない。
「シュウ……本当に気をつけて」
「わかってる……」
自室に戻り、新しい免許証を眺める。
諸星大
潜入にあたって与えられた別の自分。
潜入は志願した。失踪した父のことについて、何かわかるかもしれない。
「……まだ、どこかで生きてるよな」
死ぬわけにはいかない……真実を覆い尽くす霧を一掃するまでは。