第7章 まだ見ぬ者たち
ある女性side―
「……殺された?」
「身元がCIAだとバレたようだ」
ある組織に潜入捜査中の父からの急な電話。ほとんど連絡は取れないと言われていたから、嫌な予感はしたけど案の定、連絡役となっていた者が殺されたらしい。
「それで、私は何をすればいいの?」
「新しい連絡役が必要だ。人選は任せる」
「わかったわ。でも、どうやって会わせれば……」
「……それなんだが」
父の話では、一時的に組織へ加入する必要があるようでだが、連絡役を紹介でき次第、姿をくらませれば……。短期間ならどうにかなるだろう。
「潜入にあたって、短期間ではあるが、偽名とその戸籍を用意してもらうようになる」
「……それも私が決めていいの?」
「ああ。戸籍は上の者に言えば作れるはずだ……っと、まずい。また連絡する」
そう言って電話が切れた。
久々に父の声を聞けた嬉しさと、同時に不安が襲う。短期間であっても命の危険が伴う任務だ……その組織は簡単に人を殺すのだから。
「瑛海、これ」
同僚に渡された資料。これは確か……。
「爆発事件の……なんで今?」
「さあ?イーサンに頼まれたの」
数年前に起きた事件。大規模だったのに証拠が何も出ない未解決事件。
と、資料と一緒にクリップでとめられた写真には、若い女性の姿。きっと何かあるのだろうけど……父からまた連絡があるはずだからその時聞こう。
「名前……ね」
その時CMで流れる映画の告知。
「007……彼もスパイだったかしら」
女のスパイなら、Miss007……水無怜奈。
即席の語呂合わせだけど、悪くない。どうせすぐにこの世から消える名前だ。
偽装を担当するチームへ電話を掛ける。
「もしもし、私。悪いんだけど、潜入捜査で戸籍がいるの……そう作れるかしら?……わかった。今から行くわ」
……しまった。瑛祐になんて言えば……。
仕事のことはあえて話していないし、だからといって、急に居なくなれば不審がるだろう。ドジなくせに妙なところ鋭いから……。
「でも、変なことに巻き込まない為には……短期間旅行するとでも言えばいいかしら……」
嘘をつくのは心苦しいけど、仕方ない。
私達の功績は日の目を見ることはない。でも、失敗はすぐに知れ渡ってしまう。何度も父に言われた言葉。
「戸籍の後に……人選ね」
……上手くやらなければ。