第71章 執念
『……』
その情報収集能力はもっと任務のために使え。どこの誰が私の任務のことを漏らしたのか知らないが、あの男にかかれば女でも男でも簡単に口を割りそうだ。
『何の用?』
「この後時間ありますか?頼みがあるんです。できれば直接会って話したくて」
『急ぎなの?』
「ええ、まあ。迎えには行けないんですけど」
『わかったよ。場所教えて』
そう返せば伝えられたのはとある高級ホテルの名前。珍しい……バーボンも任務終わりだろうか。
「では、後ほど」
切れた電話にため息をつく。
「どうしたんだい?あの声、バーボンだろ?」
『あー、ごめん。途中でおろしてもらっていい?』
「それは構わないけど……まさか抱かれる気じゃないだろうね?!」
『あはは、バーボンとはそういう仲じゃないよ』
キャンティに報告までさせるのは申し訳ないから、ジン宛に任務完了のメールを送った。
「本当にここでいいのかい?」
『大丈夫。ありがとう』
ホテルから少しだけ離れた路地裏。キャンティの車も目立つし、ホテルのロータリーに入ってもらうのは気が引けるし。
『じゃあ行くね。キャンティも気をつけて』
シートベルトを外してキャンティの方を向くと、ちょっとだけ機嫌が悪そう。約束していたわけではないけど、きっと話したいことがもっとあったんだろう。
『キャンティ』
名前を呼ぶと、視線がこちらに向く。体を乗り出してキャンティの頬にキスを落とした。一瞬にして不機嫌な雰囲気が消える。
『怒ってる?ごめんね』
「ったく……アタイが男だったらこのまま食ってるよ。何かあったら連絡しな」
『うん。またね』
キャンティの車からおりて、走り去るのを見届けてからホテルへ向かった。
『えっと……』
伝えられた部屋の前につく。呼び鈴をならして1歩後ろへ下がった。鍵の開く音がして……覗いた顔に拳銃を向けた。
『お前……なんでっ?!』
そこにいたのは死んだはずの赤井。右の頬には火傷のあとがある。
背中を冷や汗がつたった。有り得ない光景に思考が止まる。条件反射でトリガーにかけた指に力を入れて……すると、赤井がニッコリ笑った。もう本当に気味の悪い笑顔で。
「予想以上の反応が見れてよかったです」
『は……?』
聞こえてきた声に力が抜けかけた。
「ここじゃ目立ちますしどうぞ」
『バー、ボン……?』