第70章 言われない言葉※
ジンside―
どれだけコイツを抱いても何かが足りない。ここの所ずっとそう思っていた。その原因かもしれないことに気づいたのはアイリッシュの一件が片付いてからだった。
気に食わねえが、コイツとアイリッシュの仲がよかったのは知ってる。アイリッシュが死ねばコイツが誰かを頼ることも、それが俺ではなくバーボンであることも……宮野明美の時もそうであったように。
なぜバーボンを選ぶのか。あの野郎に特別な感情でもあるのか……そこまで考えてはっとした。
コイツが俺に対して好きだと言ったのはどれくらい前だ?正直思い出せない。最近は抱いてる最中以外にも言われた覚えはない。
……そういえば、妙にキスをねだるようになった気がする。それとこれとが関係あるのかはわからないが。
それに気づけば今まで感じたことのないくらいの不安が押し寄せてきた。もしかしたら、勘違いかもしれない。そうであればいいと思って、夜遅くに帰ってきたコイツを半ば無理矢理抱いた。
結果、出てくるのはいつも通りの喘ぎ声と謝罪の言葉だけ。
「……どうして言わねえ」
自分で思う以上に低い声が出た。目の前で力なくぐったりしたコイツは意味がわからないというような表情を浮かべる。
『ジン……?ごめんなさい……』
「何が」
『えっ、あ……バーボンのところに行ったこと?』
わからないからこその謝罪なのだろう。そんなものを聞きたいわけじゃない。思わず鼻から笑いが漏れた。
言わせるのは簡単だ。俺が教えればいい。でも、それじゃ駄目だ……コイツの本心から出た言葉じゃなきゃ意味がない。
顔を上げると不思議そうな顔をしたコイツと目が合った。再び抽挿を始めればその表情も蕩けていく。抵抗する気なのか、胸に当てられた手。ろくに力も入ってないが。
「……言え。そしたら止めてやる」
『や、じゃない!でも、わかんないのっ……!』
どうしてわからない?前はあんなに言ってただろ?
何度目かの絶頂を迎えたコイツは身体をビクビクと震わせる。その耳元にそっと顔を寄せた。
「……亜夜」
名前を呼べばその目に涙が浮かぶ。
「……言え」
『ごめん……わからないよ……』
そう呟くコイツに奥歯がギリッと音を立てた。
ただ、安心したい。コイツの気持ちが俺に向いてると確信したいだけだ。それなのに、結局不安が大きくなっただけだった。