第70章 言われない言葉※

亜夜side―

目の前で複雑そうな表情を浮かべるジン。ただぼーっとその様子を見つめる。好きだな、なんて思いが溢れそうになるけど、それを口には出さない。

ジンが求めているのは謝罪の言葉ではないようだけど……言え、と言うくせに教えてくれないのはどうして？名前を呼んでくれた理由は？

普段の倍かけて考えて、どうにも自分の都合のいい答えにたどり着いた。

まさか、好きって言われたいとか？ベルモットとの取引の前は馬鹿みたいに好きだって言っていたし、急に言わなくなれば違和感だってあるだろう。それに……いや、ないない。ジンはそんな言葉なんかにこだわる人じゃない。言ったところで毎回同じ反応しかされないし。

『ジン……キス、したい』

重い腕を持ち上げてジンの頬に触れる。ゆっくりと瞬きをしていると、ジンの顔が近づいてきて唇が重ねられた。

ジンの首に両腕を回した。溶けそうなくらいの熱と、与えられる気持ちよさをこぼさないように受け止める。

好き、大好き……この先伝えるかもわからないありったけの感情。もし、伝えるとしたら……別れ際とか？

ジンや組織に対しての裏切りがバレるようなことがあれば、間違いなく私は消される。その時に言い残すくらいならいいだろうか……命乞いみたいになりそうだな。

「……逃げられると思うなよ」

『逃げないよ。ジンが必要としてくれてる間は』

ジンの言葉に微笑みながら答えた。

それでも、その時が来るまではそばにいたい。自分勝手過ぎるのも本当はそんなこと許されるわけがないのもわかってる。でも、ジンが望んでくれるならいいよね……。

『っ、あ……』

しばらく止まっていた抽挿がまた始まる。また流される思考を引き止めようとは思わなかった。

『ジン……っ、ねえ』

「……なんだ」

『……キス、して？』

－－－

ゆっくり目を開ける。抱かれてる間に意識が飛んだようだ。部屋には私以外の気配はない。微かにタバコの匂いがする。まだ出ていってからそんなに時間は経っていないようだ。

身体を起こすと、ナカから白濁が溢れてくる。近くにあったタオルを掴み、だるい身体に鞭を打ってバスルームへ駆け込んだ。もう何度こんな目覚めを迎えたか……もう掻き出すのも慣れた。鏡に映るキスマークだらけの身体も。

『……苦しい』

伝えたいのに伝えられないのは。たった一言なのに。