第69章 残されたもの
鼻で笑いながらそう言われて、ジトッと睨む。
「この時間に女性が1人で出歩くのは危険かと思いますが」
『……』
「せめて最寄りのコンビニまで。そこでなら応急処置に必要な物も買えるでしょうし。まあ、無理にとは言いませんが」
『……それじゃあ、最寄りのコンビニまでお願いします』
「わかりました」
下手にここで断っても上手く丸め込まれそうな気がした。どうせこの先会うこともないだろうし、今日くらいならいいだろう。2つの缶を持ったまま、声がかかるのを待った。
それから数分後。
「お待たせしました。行きましょうか」
そう言って左手を差し出される。意味がわからなくて首を傾げた。
「手、繋いで行きましょう」
『なんでですか』
「転ばれても困ります」
『転びません』
「暗いですし、怪我をしているなら普段通りとはいかないでしょう。手を繋ぐのが嫌なら抱きかかえて行きましょうか?」
『……』
抱きかかえられる方がごめんだ。渋々手を取って立ち上がる。
「足元気をつけてくださいね」
下の駐車場におりると、そこに止まっていたのは赤い車。スバル360だっけ?
「どうぞ」
助手席のドアを開けて中へ促される。軽く頭を下げて乗り込んだ。運転席に男が乗り込むが……狭そう。
変に車内を物色するのは気が引けて、ただ窓の外を眺める。しばらくすると街中に入り、コンビニも……と思ったのにその前を素通りされた。
『えっ、ちょっと……』
「すみません、私も必要なものがあって。ここから少し先のスーパーに行きます」
コイツ……最初からそのつもりだったな。あからさまに大きなため息をつくと、また鼻で笑うのが聞こえた。
そして、ついたのは24時間営業のスーパー。
靴擦れに響かないようにゆっくり車をおりる。
『それじゃあここで』
「また店内で会うかもしれませんよ」
遠回しに買い物に付き合えと言われているのだろうか。私は絆創膏買いたいだけなのに……たぶんコイツ引かないだろうな。
『……じゃあ、買い物が終わるまで』
眼鏡をかけて、髪を結び直し男の後をゆっくり追った。
私は途中で絆創膏の箱を手に取る。もうこれで帰りたいのだが、男はお酒売り場で立ち止まった。ウイスキーが並んだ棚を見ている。
『ウイスキー……好きなんですか』
「ええ、まあ。最近は特に」