第69章 残されたもの
書かれてある通りに一段目を開けると、契約書等々。なんだ、機密情報でも入ってるかとちょっと期待したのに。まあ、必要ではあるけども。
他にも何かないかと思って、次々に引き出しを開けていく。二段目は空。1番大きな三段目……には、目一杯の書類とパソコンの上にあるのと同じような手書きのメモ。
【お前が前にいた組織とそれに関わってた奴らの情報だ。俺が勝手に調べたことだから上には報告してない。要らなきゃ処分しろ】
スっと頭の芯が冷えるような感覚があった。
過去のことは思い出したくないけど、ただ命令に従っていただけだし私が知らないこともきっとたくさんある。それを残してくれた意図はわからないし、確認のしようもない。
ちゃんと向き合わないといけないのかな。でも、それは今じゃない。いつかちゃんと見ようと思って静かに三段目の引き出しを閉じた。
クローゼットやそのほかの収納場所も調べた。他にあったのは、非常食と水、救急箱、タグのついたままのタオル数枚。
何かあった時はここへ逃げ込めば数日はしのげるな。
『あ、そうだ』
私の部屋のクローゼットに入れたままの物、ここへ持ってこよう。
処分するタイミングを逃し続けたジャケット、明美が買っていたプレゼント、あの子供たちに借りた傘とハンカチも。
まだ、昼過ぎか……ここで見れるか。
パソコンを起動し、キュラソーに貰ったUSBを差し込んだ。
『うわ』
出てきた情報の量がなかなか……キュラソーは全部見たって言ってたし、見たってことはもう覚えてるんだろうな。私の脳にそれだけの容量はないから、1番気になる警視庁の館内図を見ることにした。いつ潜入することになるかわからないしね。
館内図を見ながら逃走経路なんかを考えていると、カーテンの隙間から西日が……待って、今何時?
『あ、やば』
夢中になりすぎた。慌ててUSBを抜いてパソコンの電源を切った。
ここからあの丘までどのくらいだ……歩いて行けない距離ではないけど、今から向かうとしたら帰りは真夜中になる。眼鏡をかけているとはいえ、ほとんど素顔だ。タクシーも嫌だし。一度、アジトに戻ってもいいのだが、ジンに見つかったら面倒だし。
マンションを出ても答えは出ないまま。とりあえず、目的地の方へ歩き始めた。
途中、アイリッシュがよく飲んでた缶コーヒーを2本買う。結局行きは歩いて行った。