第69章 残されたもの
翌日、目を覚ましてすぐスマホを確認した。でも、着信もメールも何も来ていないようだ。
きっと、バーボンのところにいるのはバレてる。隠す気もなかったからスマホの電源は切らなかったし。
「おはようございます。気分はどうですか?」
『うん……だいぶいい、かな』
「朝食できてるのでよかったらどうぞ。簡単なものですけど」
『ありがと』
わざわざ買い出しに行ってくれたんだろうか……ワンプレートの、それでも彩りやバランスが考えられているようで、これは簡単なものとは言わない気がする。
『……いただきます』
せめてものお礼、と思い皿洗いはさせてもらった。ギリギリまで譲ってくれなかったけど。
「送って行きましょうか?」
『ううん。寄りたいところあるし、1人で気持ちの整理つけたいから大丈夫』
「そうですか」
入れてもらったコーヒーに口を付けているのだが、隣からの視線が気になる。
『……な、何?』
「その様子だと、昨日の気持ちとは変わってしまったみたいですね」
『昨日……』
「久しぶりに触れると思って、少しだけ期待してたんですけど」
そんな会話したな……すっかり忘れていた。お礼として抱かれてもいいとは思うけど、私が抱かれたいわけじゃない。
『……ごめん』
「責めるつもりはないですから。気にしないでください」
『……でも』
「でも?」
『その……キスは、好きにしてくれてもいいかな……って思うから』
「それは、今日が終わってもということでいいですか?」
小さく頷いた。もう既に何回かしているけど。バーボンとキスするのは嫌いじゃない。キスするたびにジンへの後ろめたさが残るが。
「……こっち、向いてください」
顔を向けると、顎をすくいあげるようにして上を向かされてそっと唇が重なった。小さく啄むようなキスは、徐々に深くなっていく。コーヒーを飲んでいたせいか、少しだけ苦い。
……ジンとするキスはタバコの苦い味がするな。
『……僕とキスしてるのにほかの男のこと考えるんですね』
『っ、あ』
首元にバーボンの顔が寄せられて、舌先が這った。背筋がゾクッとする。
「そんなに固くならないでください。これ以上は何もしませんから」
『……なんで考えてることわかるの』
「気づいていませんか?キスをしてる最中、貴女の舌の動きが少しだけ変わるんですよ」