第68章 漆黒の追跡者
キュラソーside―
指定された場所で数分待っていれば、目の前に止まった車。記憶にあるものと間違いないことを確認して助手席に乗り込んだ。
「貴方に呼び出されるなんて……明日は嵐にでもなるのかしら」
「そうかもな……携帯貸せ」
「言われた通り電源は切ってるし、追手もいないわ」
「疑ってるわけじゃねえが……おりる時に返してやる」
仕方なくスマホを差し出すと、それは私の手の届かないところに置かれた。
「それで話って何?」
「……俺が今受けている任務は知ってるか」
「ええ。警視庁に潜入してるそうね。目的はNOCリスト。それが?」
「お前に頼みたいのは、最悪の場合の話だ」
「あら、貴方消されるの?」
「俺が偽物だとバレたとすりゃそうなるだろうな」
「ラムに掛け合ってそれはやめろとでも言わせるつもり?」
「いや、違う。簡単に殺られるつもりはねえが、もし、そうなった時は……あいつを止めて欲しい」
「あいつって……マティーニかしら?」
「ああ。たぶん、俺が消されるとなったら間違いなく助けに来ようとするだろうからな」
「ずいぶんな自信ね」
「……面倒な約束しちまったんだよ。あいつを巻き込みたくねえ。嫌われればいいかと思って、そう仕向けたが上手くいかなかった」
ちらりとアイリッシュの顔を見れば、面倒と言う割に表情は柔らかく見えた。2人の仲がいいのは知ってる。それこそ父親と娘みたいに。
「入れ込んでるのね」
「たぶんな……」
「それよりどうして私に?他にも頼める人はいるはずよ」
「あいつを止めるなら部屋の前で待ち伏せるのが確実だ。どれだけ急いでいたって、建物内で拳銃使うほどあいつは馬鹿じゃねえし……素手でやり合ってあいつに勝てるのは俺かお前くらいだろ」
「……わかったわ。あの子が貴方の元へ向かおうとしたら止めればいいのね」
「ああ。このことは誰にも……特にあいつには話すなよ」
アイリッシュはそう言ってUSBとスマホを差し出して来た。
「これは?」
「礼だ。俺が今まで相手にした組織の情報と警視庁内の館内図のデータ。好きに使え」
「そう」
「それと」
スマホとUSBを受け取り車をおりた所で声がかかった。
「もし、俺が生きてたら今日のことは忘れろ。俺が死んだらあいつには謝っておいてくれ。約束守れなくて悪いってな」
「……ええ」