第68章 漆黒の追跡者
亜夜side―
『ん……』
目を開けると見慣れた天井が視界に写った。体を起こして少しだけ痛む腹部をさすった。何してたんだっけ……私、なんで寝てるんだろ……?
「あら、起きた?」
声のした方に視線を向けると、パソコンの前に座ったキュラソーがいた。マウスの音が数回聞こえて、パソコンの画面が消える。キュラソーは立ち上がってベッドの横に立った。
「ごめんなさい。あのまま廊下に放置するわけにもいかなくて、勝手に鍵開けさせてもらったの」
『……』
「痛む?強くやりすぎたかしら」
『……あっ』
意識が落ちる前のことを思い出して、枕元に置いてあったスマホを慌てて持ち上げる。表示された日付は7/8。血の気が引いた。
『……アイリッシュは?アイリッシュはどうなったの?』
「……消されたわ。メモリーカードと一緒に」
消された?アイリッシュが?頭の芯まで急激に冷えていく感じがした。
『どうして……どうして行かせてくれなかったのよ?!私が行ってたら助けられたかもしれないのに!』
キュラソーを睨みつけて、喉が痛くなるくらいに叫んだ。爪が食い込むほどに拳を握り締めないと、また手を出してしまいそうだった。
「貴女が行ったところで手遅れだったでしょうし、無駄な犠牲が増えただけよ」
『そんなの……だって、約束したのに……何かあったら助けるって言ったのに……っ』
また守れなかった。また私の知らないところで死んでしまった。もっと早く気づけていたら……もっと私が強かったら。
ジワジワと浮かんできた涙は、こぼれるギリギリのところで目の縁に溜まる。
「誰にも、特に貴女には話すなって言われてたんだけど……教えてあげるわね」
キュラソーが不意にそう呟いた。
『……何を』
涙の溜まった目でキュラソーを見る。
キュラソーは小さくため息をついて、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「……もし、貴女が彼の元へ向かうならどんな手を使ってでも来させるな。そう私に頼んできたのは他でもない……アイリッシュ本人なんだから」
『え……?』
全く考えもしなかったことを言われて、間抜けな声が出た。アイリッシュがそう言ったの?
『なんで……どういうこと?』
キュラソーはベッドに軽く腰をかけて続けた。
「7/6の……23:30だったかしら。彼から連絡が入ったのは」