第68章 漆黒の追跡者
「……それと、約束守れなくて悪かったって伝えてくれって」
キュラソーが話し終えた。驚きのせいで留まり続けていた涙も話が終わると同時に静かにこぼれた。
キュラソーの手が私の頭を遠慮がちにそっと撫でる。
「許してくれとは言わないわ。どれだけ恨んでくれても構わないから」
その言葉に小さく首を振る。
『っ……ありがと……』
震えそうになる声ではそう絞り出すのが精一杯だった。
「……そういうところなのかもしれないわね」
そう言って、そっと私の手を取りUSBを握らせた。
「私は全部見たからもういらないわ。形見には味気ないかもしれないけど。それじゃあ」
キュラソーは立ち上がってそのまま部屋を出ていった。
『っ……』
最後にアイリッシュに会った時の様子はおかしかった。その時に気づけていたら……守りたかったのに守れなかった。あんな約束したくせに。守られたのは私の方だなんて。
涙を何度も拭ってどうにか呼吸を落ち着けようとするけど、感情がぐちゃぐちゃだし、どうしようもないくらいの後悔に潰されそう。
その時着信音が聞こえた。手に取ろうか迷ったけどずっと鳴り続けているのも嫌だし、何より番号を見てすがる気持ちが勝った。数回大きく深呼吸をして、通話ボタンを押して耳に当てる。
『……何?』
「貴女が泣いているような気がして」
『私、見張られてるの?』
「まさか。勘ですよ……迎えに行きましょうか?」
聞こえてきたバーボンの声が、今はどうしようもないくらい心地よくて安心できた。
『……』
「もちろん、無理にとは……」
『……いつものところで待ってる』
「わかりました。では、後ほど」
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「こんばんは。僕の家でいいですか?」
『……ん』
最近は滅多に使わなくなった待ち合わせ場所。あの時は偶然バーボンが通りかかったんだっけ?スーパーヒーローとかが存在するならこんな感じなんだろうか。
一応出てくる前に顔は洗ったけど、たぶん目元は腫れてる。外は暗いからあまりよく見えないだろうけど、バーボンの家に着くまではずっと窓の外を眺めていた。
「どうぞ」
覚束無い足で促されるままソファに座った。
「何か飲みますか?」
『……いらない』
声が震えてる。また泣くかも……涙がこぼれる前に慌てて拭おうとしたけど、それより先にバーボンにそっと抱きしめられた。