第68章 漆黒の追跡者
事件がなかなか進展しなかったのか、タイミングを逃したのか……アイリッシュからの連絡が入ったのは夜になりかけている頃だった。
新堂という女は明け方遺体で見つかったらしい。もちろん麻雀牌も。そして、被害者の1人が残したダイイングメッセージは七夕と京都を示していた。被害者は全員一昨年京都にあるホテルに宿泊していたとのこと。それから、もう1人殺される可能性があるということも。
今までの被害者が殺された場所を赤い点で地図の上に示す。
『ん……?』
この形、つい最近どこかで見た……どこだっけ。
思い出そうとしながら座り続けて固まった体をぐっと上に伸ばし、首をぐるぐると回して上を見て……
『あっ!』
思い出した。座り直して大急ぎでとある画像と地図を重ねる。
『……ビンゴ』
犯行現場とぴったり重なったのは北極星と北斗七星の星の位置。ここまで綺麗に重なるのは犯人がよほど几帳面な性格なんだろう。
となると、残る星の位置からして最後の犯行現場は……芝公園。ここまでわかれば、あとはアイリッシュが上手くやるはず。一応メールだけ送っておこう。
じゃあ、あの男の面倒を見るのも今日が最後か。21:00を過ぎたし、そろそろ準備をして向かおう。そう思って立ち上がった時電話が鳴った。誰かと思ってスマホに表示された番号を見る。
『……ベルモット?』
不思議に思いながらも通話ボタンを押した。
『もしもし?』
「Hi、マティーニ。いまどこかしら?」
『まだ部屋にいるけど……』
「ならよかった。貴女の仕事はもうないわ」
『どういうこと?』
「……バレたのよ。警視庁にいる彼が偽物だって」
『え……?』
「ジンには連絡を入れてあるわ。じゃあ、それだけだから」
『えっ、待って!』
私の声は届かず、電話は切られてしまった。
バレたって……伝えなければ、と震える指でアイリッシュの番号を押したけど繋がらない。
ジンにも連絡が行ってるってことは……今までのことから考えて組織の人間は警察に捕まる前に口封じをされる。つまり、アイリッシュも……
『そんな……!』
ライフルのバッグを引っ張り出し、中をざっと確認してそれを背負う。そして、勢いよく部屋を飛び出したが……通路を塞ぐようにして立っていた人物を前に足を止めた。
「……あら、マティーニ。そんなに急いでどこへ行くの?」