第68章 漆黒の追跡者
メイクを落としてウィッグを外して部屋へ戻る。
『これでいい?』
「……ああ」
アイリッシュはチラリと視線を向けて、すぐにパソコンに目を落とした。
『何見てるの?』
「もう少し待て。その間に聞きてえことがある」
『ん、何?』
「江戸川コナンって知ってるか」
予想外の名前に思考が止まった。ここで下手に嘘をつく理由もないし素直に答える。
『知ってるよ。怪盗キッドの事件で時々新聞に載るよね』
「ああ……それと、もう1人」
誰の名前が出るだろう……心臓の音がどんどん大きくなっていく。
「工藤新一を知ってるか」
『う、うん。有名な高校生探偵よね?最近はメディアにも全然出てこないけど……』
「知ってんなら話は早い……見てみろ」
そう言って見せられたパソコンの画面。そこに映し出されているのは、指紋の照合……一致率98%。
『これって……』
「工藤新一が触った演劇の衣装と、江戸川コナンが作った粘土工作。それぞれに残ってた指紋だ」
『じゃあ、2人は……同一人物ってこと?』
「間違いなくな」
『……やっぱり』
「お前……知ってたな?」
思わず漏れてしまった呟きはアイリッシュの耳に届いてしまったらしい。ハッとしたが、弁解のしようもない。
「いつから知ってた」
『えっと……』
「誰にもチクッたりしねえよ」
『……』
「ほら、言え」
『その……何回か会ったことあって。もしかしたらって思ってたけど、確証はなかったし……』
アイリッシュの顔を見るのは怖くて、目を逸らしたまま話す。アイリッシュからの返事はなくて、部屋に沈黙が落ちる。
『あの……』
言葉を発しかけたところで部屋に響く着信音。私のは電源を切ってるから、これはアイリッシュの?
アイリッシュは画面を見ると少しだけ顔に力が入った。
「絶対音立てるなよ」
私が小さく頷くと、通話を開始した。
微かに電話口から聞こえるのは……ジンの声?
「そういえば、あの高校生探偵を例の薬で処分したのはお前だったな?」
間違いなく話し相手はジンだ。でも、なんでそんなこと……。
通話はすぐに終わったようで、アイリッシュは暗くなった画面を睨みつけると、スマホを机に叩きつけるようにして置いた。
『……それで、そんなもの調べてどうするの?』
「知りてえか?」