第67章 他人の空似
『まさか、ここまでとはな……って。死ぬなんて思ってなかったでしょうし』
「……そうですか」
バーボンはやっとレコーダーからディスクを取り出した。
『満足した?』
「いえ、まだ」
……この様子じゃ、このディスクの映像コピーして擦り切れるまで見そうだな。本気で赤井が生きてると思ってるみたい。
「もしかしたらこの先、手を借りることがあるかもしれません」
『……協力したいと思うだけの情報を持ってきてくれたらね』
「わかりました」
さっさと部屋を出ようとドアノブに手を伸ばす。でも、その上からバーボンの手が重ねられた。そして、もう片方の腕が私の肩に回され抱き締められた。耳に当たる吐息のせいで体に力が入る。
「……教えてくれませんか?」
『……』
「あの夜、本当にあったことを。貴女は全て見ていたはずです」
『……教えるも何も、あの男の報告の通りよ』
「……そうですか」
バーボンがそう言ったから、もう解放されると思ったのだが。ぎゅっと一層強く抱き締められる。
『っ……ねえ、離してよ』
「じゃあ、キスしていいですか?」
『さっきしたじゃない……』
「ならもう少しこのままで」
バーボンの頭が肩にうずめられる。こんな状態のバーボンを変に突き放すのも気が引けて……でも、そろそろ戻らないとジンが帰ってくるし。
『っ……』
ポケットの中のスマホが震えた。すると、バーボンの力も少しだけ弱められるが、離そうとはしない。
『変なことしないでよ』
バーボンにそう言って通話ボタンを押した。
「どこにいる」
『あ……もう帰ってきたんだ。すぐ戻るよ』
ジンの声は明らかに不機嫌。まずいな、早く部屋に行かないと……。
「……すぐ戻れ」
『うん、わかった……』
そう答えればすぐに電話は切られた。
「相変わらず仲がいいんですね。妬けます」
『馬鹿なこと言ってないで……もういいでしょ、離して』
「……キスしてくれますか?」
『しないわよ』
「だったら帰せません。本当ならこのまま連れ去りたいくらいなのに」
『ねえ、本当に……』
抵抗しようともがくほどに、バーボンの力は強くなっていく。ここは……もう受け入れるしかないのか。
『はぁ……もう、キスでも何でも好きにすれば』
そう言えば力は緩み、体を反転させられて壁に押し付けられた。