第67章 他人の空似
赤信号で車が止まる。すると、肩を強く引かれて気づけば唇を重ねられていた。急なことで抵抗もできないまま、歯列を割って舌が入り込んでくる。
数秒なのか、何分か経ったのか……後ろの車のクラクションが鳴ってようやく口が離された。
「今日はずいぶんとおしゃべりですね?」
『……』
たぶん、遠回しに黙れと言われたんだろうな。話を聞きたがったのはバーボンのくせに……私が思っているより、赤井のことを嫌っているようだ。いや、嫌うというより……恨んでいるの方が近いのかもしれない。
あの日、スコッチが自ら引き金を引いたのに。そのきっかけがバーボンの足音であることも……バーボン自身は知らないだろうし知る必要もない。
確かにスコッチは馴染みやすかったし、親しい仲になるのもわからなくはないけど……疑いたくないが、もしかしたらスコッチと同じ公安の人間なのではないかと思ってしまう。
ため息をついて唇を手の甲で拭う。久しぶりのキスの感触を消すように口紅を塗り直した。
アジトの駐車場に着くまで車内はずっと静かだった。車が止まりお礼を言おうとしたが、バーボンもシートベルトを外した。
『……呼び出し?』
「いえ、さっき言ってた映像を見せてもらおうと思って」
『そんなに急ぐ必要ある?』
「気になったらすぐに自分の目で確認しないと気が済まないものですから」
『……今日行っても無理だと思うよ』
「先程ベルモットに許可はもらいました」
さっきスマホは触ってたけど……にしても早すぎる。
『そう。それじゃあ……』
「せっかくですし、一緒にどうですか?」
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よくわからない誘いに乗ってしまい、その映像が保管されてる所謂資料室みたいな部屋へ。
真新しいディスクをレコーダーにセットして再生する。あの日、ジンの車で見た映像が流れ始めた。やっぱり音は入ってない。あの時も盗聴器からの声を聞いていたし……無音の映像をバーボンは食い入るように見つめるた。数分の短い映像はすぐに終わってしまう。
「……」
バーボンは無言で再生ボタンを押した。何度も何度も映像の中の赤井は頭から血を吹いて倒れる。繰り返し見ているせいか、本当に死んだのか……なんて疑問が湧き始めた。
「この時、何を言ってたか知ってますか?」
映像はキールが赤井の頭に拳銃を突きつけたところで止められている。この時は確か……