第67章 他人の空似
顔が近づけられて……唇が当たらないギリギリのところで止まる。至近距離で交わる視線。バーボンの瞳は行き場のない怒りが見えた。まとう雰囲気も何だか怖い。一度制止しようと口を開きかけた。
「……好きですよ、貴女のこと」
私が言葉を発する前に小さな呟きと共に唇が重なった。いつになったら諦めてくれるんだろう。
軽いキスを何度も落とされた後、バーボンの舌が私の唇をゆっくり舐められ、反射的に唇を薄く開いた。
さっき車の中でされたのとは全く違う。優しいけど、でも欲望を全てぶつけるようなキス。上顎や歯列をなぞられると徐々に体の力が抜けていく。頭もぼーっとしてきた。
息も上手くできなくなってきて、バーボンの胸に手を置いたけど退いてくれる様子はない。むしろ、どんどん深くなっていく。
本当やばい……力の抜けている手で胸を叩くと、名残惜しそうに舌を吸いながら唇が離れた。
『はぁ、はぁ……馬鹿、長いのよ……っ』
「今までしてくれなかった分です。まだ足りませんけど」
先程までの雰囲気は消えて、いつも通りのバーボンがそこにいる。
「できることなら抱きたいです」
『……死にたくなければ諦めるのね』
「貴女が黙っていれば問題ないでしょう?」
『……ジンに、嘘はつきたくないわ』
どの口がそれを言うのかと自分で自分を殴りたい。一体いくつの秘密を抱えているのか、もう数えることもしてないのに。
『……じゃあ、鍵返しておいて』
「ええ。付き合ってくれてありがとうございます」
振り返らずにその部屋を出て、急ぎ足で自室へと向かった。
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『う……』
昨夜、部屋に戻るとかなり不機嫌なジンに迎えられた。そして、有無を言わさずに限界まで抱かれたせいで体がだるい。
部屋の中には私だけ。今日も遅くまでジンは戻って来ないだろう。調べるなら今のうちか……そう思って重い体を起こしパソコンの前に座る。
本堂瑛祐の情報を……と思ったのだが、いろいろな場所を調べても面白いくらいに何も出てこない。海外に出た記録もないし、何もないのだろうか……もちろんそうであって欲しいのだけど。
本当に他人の空似なんだろう。少しモヤモヤするが、今はそうしておこう。パソコンを閉じて体をぐっと伸ばした。
『あ……』
ジンがNOCリストがどうのって言ってたな……帰ってきたら聞いてみよう。