第67章 他人の空似
「珍しいですね。素顔で出歩いているのは」
『……別に良いでしょ。貴方は任務?』
「表の方の仕事があって」
『へえ……』
窓の外を流れていく景色を眺める。どうやらまっすぐ帰してくれる気はないらしい。曲がるべき交差点はとっくに過ぎた。
『……何か話でもあるの?』
「察しがよくて助かります」
『じゃあさっさと終わらせて』
「久々に会えて嬉しいのは僕だけですか?」
『どこに喜ぶ要素があるのかわからないんだけど』
「好きな人と一緒にいられて喜ばない人はいないと思いますけど」
『冗談ならやめて』
「本気ですよ」
声色が少しだけ変わった。視線を向けるといつもの笑みを返される。
『……で、何の話?』
「あの男のことですよ」
また声色が変わる。今度は若干の怒気を感じる。
「本当に死んだんですか?」
『そんな馬鹿なこと聞きにきたの?連絡はもういってるでしょ?』
「どうしても信じられないんです。組織があれだけ手を焼いていた男が、こうも簡単に死ぬなんて」
『……だったら、その時の映像見れば?ベルモットに話せば見せてもらえると思うけど』
「映像?」
『そう。キールが首につけてたカメラで撮ったやつ。音声まで拾えてるかはわからないけど』
「……じゃあ、肉眼であの男の死を確認したわけではないんですね?」
『それは……そうだけど……』
「わかりました。上に掛け合ってみます」
実際に見ていないから生きていると思ってるのか……変なの。
赤井の頭を撃ち抜くように指示したのはジンだし、頭から血が吹き出して倒れるのも見たし……それに、もし赤井が生きているとしたら、キールだってあちら側だ。
『そこまで赤井の死を疑う理由は何?』
「……あの男を殺せるのは自分だけだと思ってましたから。その前に聞いてやりたいこともありましたし」
『聞きたいこと?』
「ええ」
この様子だとその聞きたいことが何かを話す気はないんだろうな。
組織にいた頃から仲は良くなかったし、私の知らないところで因縁でもあるのか……そこまで考えて、ふと1人の人物を思い出した。
『……スコッチ』
そう呟いた瞬間、車内の空気が一段と張り詰めた。
『NOCだった男にまだ情けをかけてるの?』
「まさか。そんなわけないでしょう」
『でも、あの日からよね?貴方と赤井の仲が……』