第66章 赤と黒のクラッシュ
「……あの方からの命令だ。それなら従うまでだろ」
『そう、だね……』
「安心しろ。ヤツの死に顔は拝ませてやる。カメラ越しの映像だがな」
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『ごめん、ちょっと顎上げて』
キールが赤井を呼び出した後。ヤツを迎え撃つための準備中だ。
キールの首にカメラが内蔵された……首輪と言った方が近いものを巻いた。それを隠すようにして襟は立てる。もちろんカメラのレンズは遮らないように。
『ん、普通にしていいよ。ちょっと重いかな』
「問題ないわ」
『そう』
それからキールの着ている上着に盗聴器を、確実に音を拾えるように数個取り付ける。
「……これが終わったらもう少し自由になるのかしら」
『たぶんね。どうしたの?不安?』
「当たり前でしょ。ジンでさえ手を焼いてる相手よ?返り討ちにあうんじゃないかって思って」
『あら、貴女が躊躇いなく引き金を引ければ問題ないと思うけど?あの時みたいに』
「……あの時?」
『貴女が尋問された時のこと。入り込んでいたスパイの顎を下から撃ち抜いたって聞いたけど?』
「あれは……あの時は必死だったのよ。正直よく覚えてないわ」
『そっか……はい、これでいいよ』
キールの支度を整え終えた。片付けて……この後ジンとウォッカと合流する。
「……貴女は平気なの?」
『何が?』
キールの問いに振り返る。
「人を、殺すのは平気?」
『……それが普通だからね。慣れれば平気だよ』
それが世間では許されないことだと知った時には、もう何人も殺した後だった。許されないことだとわかった後も何人も……だって、殺さなければ殺されるんだから。
だけど、最近は少しその手の任務は嫌だと思うようになった。どんな相手でもほんの少しだけ罪悪感を感じたりとか、引き金が前より重くなったような気がしたりとか……でも、やらないといけないから。
『それじゃあ、上手くやってね』
「……ええ」
駐車場までおりて、そのままジンの車に乗り込む。車内は惨んだが、漂う雰囲気はむしろ喜々としているように感じる。やっとあの赤井を葬れるからだろうか。向かう先は……来葉峠。時間的にも車通りは少ないし、なかなか良い狩場だろう。
キールの車を確認して、遠く離れた場所にジンの車も止まる。すぐにモニターにカメラの映像が映し出された。
そして、その数分後。現れた黒いシボレー。
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