第66章 赤と黒のクラッシュ
部屋の中に漂う空気は作戦前より張り詰めている気がする。
あんなに上手くいったのは何度考えても引っかかるし、必ず絡んでくると思っていた赤井が来なかったことでヤツを殺り損ねたのも一因だろう。
ジンがタバコを取り出して火をつけた。テーブルの上に置かれたタバコの箱に手を伸ばそうとしたが、ギリギリのところでジンの手がそれを持ち上げた。
『1本くらいいいじゃない』
「てめぇの吸え」
『へぇ……?自分はまた人のヤツ全部吸ったくせに?買い置きしてあったやつないんだけど?』
「チッ……」
大きな舌打ちと共に投げてよこされたタバコの箱を空中で受け取る。中から1本取り出して火を付けた。
『……ジンはどう思ってるの?』
口からゆっくりと煙を吐きながら聞いた。
「……もし、攻めあぐねてる敵がいたとして、その内情を知る駒を手に入れたとしたらどうする」
『……それって、ヤツらがわざとキールをこちら側に渡してきたってこと?』
「な、何のために……?」
『さあ……』
「……司法取引はヤツらの十八番だろ」
司法取引……情報を売れば罪を不問にするとか、証人保護プログラムも司法取引の1つだ。
「じゃあ、キールは組織を裏切ってFBIに言いくるめられたってことですかい?!」
『待って、まだ可能性の話でしょ?それにキールは前に酷い尋問を受けて、それでも口は割らなかったんだし……そんな彼女が簡単に寝返るとも考えにくいわ』
短くなってしまったタバコを灰皿に押し付けながらそう言った。
ウォッカが部屋を出て行ったが、室内の雰囲気はそんなに変わらない。
しばらくの間、キールは不自由な生活をすることになるだろう。盗聴器に発信器、見張りも数人……かなりの期間、FBIに匿われていたのだ。もし、キールが組織を裏切っていたとしたらどこかで接触する可能性もある。でも信じたくない……。
『ねえ、本当にキールが寝返ったと思ってるの?』
「……キールがそれを否定するなら、それを証明させればいい」
『どうやって?』
スマホを見ていたジンが口角を上げた。
「あの方からの命令が届いた……赤井をこちら側に誘い込み、葬れと」
『もしかして、それをキールにやらせるの?』
「……何か問題があるか?」
『あ、いや、そうじゃなくて……ジンが殺るものだと思ってたから……』