第66章 赤と黒のクラッシュ
そして、作戦当日。あと30分程で動き始める。
『病院内の回線はジャックした。これでいつでも流せるよ』
昨日、喜べと言われた仕事は動画の編集。事前に用意してあったという映像と音声を組み合わせるだけだったから大したことはなかった。
そう言えば、これは何年前の彼女なんだろう。最終確認のために見返している映像に流れるキールはずいぶん若い。髪の長さも今とはだいぶ違う。が、これ以上に適した映像はないので仕方ない。
これを病院内のTVに流す。送り付けた発信器付きの爆弾がFBIの手に渡った頃合を見て。病院内の設備は電波や無線で不具合が起きやすい。きっとFBIのヤツらも使わないようにしているはずだ。
そんな状況で、その映像を流したらどうなるか……今の彼女ではないことに気づくヤツはきっといない。ゴミに群がるハエのように慌てて病院の一室に集まっていくはずだ。キールのいる病室に。
「……そろそろですかい」
ウォッカの声に視線を外へ向けた。正面のビルから黒煙が上がっている。その数分後、救急車が数台……それらが走り去った方から乗用車が何台も。道を歩く人も皆同じように杯戸中央病院に向かっていく。
火事、集団食中毒、異臭……火傷以外は似たような症状か出る。関係のない一般人を巻き込んでしまったのは少しだけ申し訳ない。
『……まだ?』
「もう少し待て」
ジンとウォッカが見ているパソコンの画面には、発信器の位置を示す光。病院全体に散らばっている光は2つ、3つ……と少しずつまとまりながら動いていく。FBIが回収して回っているのだろう……胸ポケットなんかに入れたままで。
「……やれ」
『ん』
待ってましたとばかりにEnterキーを押した。今頃、病院内のTVにはキールが映し出されているだろう。
「まるでゴミに群がるハエのようだ……」
「どんどん集まって来てますぜ……」
後ろの席から乗り出してその画面を見る。
『第4病棟の307号室ってところかしら……』
その場所にいくつもの光が集まっていく。そして、そこにいるであろうキールの様子を見てやっと気づく。組織の手によって踊らされていたことに。
でも、キールの居場所を割り出すのが目的ではなかったらしい。いつもそう。重要なことはギリギリまで教えてくれない。
『で?これからどうするの?』
「あとは急いたハエどもがどう飛ぶか……」