第65章 戒めの傷跡※
「……なんだ」
『ん?これ、消さないのかなって』
指先でそっと頬に残っている傷跡をなぞった。
組織の医療技術があれば傷跡くらい消せる。そこに傷跡があったことなんて信じられないくらいに綺麗に。
『格好良い顔してるのにもったいないな……』
「……てめぇだって残ったままだろうが」
ジンに触れていた手を強く掴まれる。そして、ソファに押し倒された。右のキャミソールの紐を下げられて、その部分にジンの手が触れた。
「これだってあの男にやられた跡だろ……どうして消さねえ」
『これは……』
本当は赤井にやられたものじゃない。でも、消すわけにはいかない。これは戒めなんだから。
『……忘れたくないの、あの時のことは。いい思い出じゃないけど』
「……そうかよ」
ジンの顔が右肩に近づいてきて、舌先が傷跡を舐め上げた。
『っ……』
肩の方から首筋へ向かって舌が肌を這っていく。同時に服の裾から手が入り込んできた。
『ちょ、だめ……』
ジンを押し返そうと力を込める。でも、ソファだし体勢もよくないし……何よりジンの力がなんか強い気がする。
脇腹を何回か往復した手が、今度はショートパンツのウエスト部分にかけられ……そこで、雰囲気を壊すように鳴り響いた着信音。ジンのスマホが鳴っている。
それなのにジンはどこうとしない。音が聞こえた瞬間は力が緩んだけど、すぐに邪魔するなと言わんばかりに舌も手も動きが荒くなっていく。だから私も抵抗の力を強めた。
『電話……!』
「ほっとけ」
『急ぎだったらどうするのよ……!』
「……チッ」
そこまで言えばようやく身体を起こして、不機嫌そうに通話を始めた。ジンの口調の感じだとたぶん相手はベルモットだ。キールの件に動きがあったんだろうか。
私も身体を起こして乱れた服を直す。その気になりかけていたことは黙っておこう。
『……』
左手で自分の右肩を掴んだ。あの時、赤井を始末していたら明美は生きていたんだろうか……でも、あの男が死んだとなれば、利用されていたとしても明美は悲しんだだろう。本気で好きだったのは間違いないだろうから。
この先、何度選択を間違えるんだろう。間違えればその分秘密が増える。正しい選択をしても何かを失う気がする。
もしかしたら、ずっと前に間違えていたのかもしれない。この組織に来ることを選んだあの瞬間から。