第64章 ブラックインパクト
「……とりあえず最優先はキールの奪還。詳細は後から連絡が来ると思うわ」
ベルモットは言い残して行ってしまった。
ジンはコートと帽子を脱ぎ始める。その様子をソファに座ってぼーっと見ていると、また涙がこぼれ始めた。
「何を泣いてる」
『だってぇ……ジンが、死んじゃったらどうしようって……怪我してるくせに私のこと抱き上げるし……』
全てが凍りつくようなあの感覚を思い出すと……最悪な未来を想像してしまう。あの時スコープから目を離すのが少しでも遅れていたら、ジンが防弾ジャケットを着込んでいなかったら……私はどうなっていたかわからない。
「簡単に死ぬわけねえだろ」
『そんなのわからないでしょ……!』
「死なねえって言ってんだろ」
顎を掴まれて顔を上へ向けさせられる。
「……少なくともてめぇを殺すまでは死なねえよ」
『本当……?』
「……」
返事の代わりに触れるだけのキスが落とされた。それでもあの恐怖はすぐには消えてくれないようだ。
ジンの手が離れていく。そしておもむろに上の服を脱いだ。厚く巻かれている包帯に思わず顔をしかめる。
『ちょ、何してるの?』
「シャワー浴びる」
『駄目だよ!さっき処置してもらったばかりでしょ?』
包帯を解こうとする手を掴んで止めようとする。本当に怪我人なのかと疑いたくなるくらい力が強い。
「離せ」
『駄目!今日は我慢して!』
「大丈夫だって言ってるだろ」
『私が心配なの!』
確かにシャワー浴びないで寝るのはちょっと気持ち悪いっていうのはわかるけど……。
『お願い……顔を洗うのはいいけどシャワーは駄目。拭けるところは拭いてあげるから……明日まで我慢して』
「……チッ」
体を拭き終えると、ジンはベッドに横になった。その動きもいつもに比べてゆっくりというか、恐る恐るというか……あの様子じゃ薬があっても不安だ。
私もメイクだけ落とし、体は拭くだけにしてジンの横に寝転がった。
「……てめぇは何ともねえだろ」
『離れてる隙に何かあったら怖いから今日はいい』
まだ寝るには早すぎる時間だが、ジンは安静にしていないといけないし、こんな状況で調査を始めるほどの気力は私には残っていない。ジンは既に寝入ったようだ。
ジンを撃ったことを許すことはできないが、1つだけあの男に謝りたい……明美を守れなかったことだけは。