第64章 ブラックインパクト
「報告は私とウォッカでしてきてあげるから。行くわよ」
「は、はい」
ベルモットはウォッカを連れて行ってしまった。キャンティとコルンの姿も既にない。
「チッ……」
舌打ちをしながらも医務室へ向かってくれるようだ。力の抜けそうになる脚に鞭を打って、それでも隣を堂々と歩く気にもなれなくてジンの数歩後ろをついていった。
レントゲンを撮ることになってジンは嫌々と服を脱ぎ始めた。その動きもすこしばかりぎこちない。
『手伝う……?』
「……いい」
そう言って捲られた服の下に見えた痣。白い肌に滲むような赤黒さは、どうしても大したことないようには見えない。
しばらくお待ちを、と医師に言われた。奥へ入っていくジンの姿を突っ立ったまま見送る。視界が涙で滲んでいて、ただただ不安で仕方ない。
「ひどい顔してるわよ」
いつの間に来たのか、ベルモットが隣にいた。
「屋上の時とさっきので貸し借りはなしね」
『ん……』
屋上でベルモットに賛同したことと、さっきジンをここへ向かわせたこと。貸しだなんて思ってなかったけど頷いた。
しばらくして医師だけがこちらに戻ってきた。
「様子はどうなの?」
「アバラ数本にヒビは入っていますが、折れてはいませんでした。防弾ジャケットがうまく防いだようです。命にも別状はありません」
「そう」
「しかし……相当痛みが強いようです。常人なら立ち上がることすらできないくらいかと。今は鎮痛剤と湿布で落ち着いていますが、数日の間は薬が必要でしょう」
差し出された袋を受け取ると、力が抜けてフラフラと椅子に座り込んだ。
『よかったぁ……』
息を大きく吐き出すと同時に涙がこぼれ始める。
「……行くぞ」
ジンの声がして顔を上げる。涙を拭って、ジンの後を追って立ち上がろうとしたのだけど。
『あれ……』
「どうしたの?」
『あ……安心して力抜けちゃったのかな……先行ってて』
脚に力が入らない。脚どころか体中の力が抜けてしまったみたいだ。力なく笑ってベルモットに手を振る。
『え、なに……?っ、や、だめ!』
ジンが部屋の中に戻ってきたかと思えば、そのまま抱き抱えられた。
『駄目だってば!怪我してるんだよ?!』
「暴れんな、そっちの方が痛え」
そう言われると大人しくしないわけにもいかず……下ろしてもらったのは部屋についてから。