第64章 ブラックインパクト
「あのビルだよ!」
その場にいる全員の視線が向く。確かにこの場所を狙撃するためにはあのビルしかないだろうけど……で
「バ、バカな!700ヤードは離れて……」
ウォッカが驚くのも無理はない。この距離で、指に摘まれたあの小さな盗聴器を正確に撃ち抜く……そんなこと普通のヤツができるわけがない。
でも、1人だけそんな芸当ができる人間に心当たりがある。
「貸せ!」
ジンがコルンのライフルを奪って構えた。
「赤井……秀一?!」
私が思っていた人物の名前が上がると同時に……ジンが覗き込んでいたライフルのスコープを弾丸が貫通した。
『っ……!!』
声が出なかった。ギリギリ避けられたからよかったものの、ほんの一瞬でも遅れたらジンは……それだけで終わらず、ジンの体に弾丸が撃ち込まれる。
全身が氷に包まれたかのような、そんな感覚に陥る。四肢の先が冷たくなっていき、唇が震えているのがわかった。
それでも理性が飛ばずにいられるのは、ジンがまだ立っているから。まだ、生きているから。
「あ、兄貴……」
「ずらかるぞ……」
「でも、探偵とガキは?!」
「構うな!急げ!」
その声に全員下へおりていく。肉眼ではその姿を見ることはできないけど、あのビルの上でスコープを覗き込んでいるであろう男を睨みつけて私も後に続いた。
車内での会話は断片的に理解した。要するに毛利小五郎はFBIに利用されただけだという結論に……実際は違うんだろうけど、敢えて口は出さなかった。
それと、キール。彼女がFBIの手に落ちたのは間違いないだろう。何としてでも見つけ出す気らしい。
途中、後を追跡してきた車をまいてアジトに戻ってきた。建物内に入ってジンの後をついて行くけど……
『ねえ、どこ行くの?』
「あ?部屋に戻る」
『馬鹿なこと言わないで……医務室行くよ』
反対方向へ歩き出そうとするジンの腕を掴んだ。
「……大したことねえ」
『駄目。ちゃんと診てもらわなきゃ……』
「必要ねえって言ってんだろ」
『駄目だって言ってるでしょ!!!』
振りほどかれそうになった腕を強く掴んで、発した声は叫び声のような……自分でも驚くほどの大声が出た。ジンの目がスっと細められる。
『あ……ごめん、でも……』
「……一応行ってきたら?」
ベルモットが呆れたように肩をすくめながら言った。