第64章 ブラックインパクト
ジンは不敵に笑って靴の底についていたガムを取った。その中から……2つの小さなボタンのようなものが出てきた。
ジンは2つを見比べて、1つは指で潰した。パチンっと軽い音を立ててそれは粉々になる。もう1つは取り出した布で包んでポケットに入れ……どこかに電話をかけ始めた。
私とウォッカはそれをただ見ていることしかできない。張り詰めた空気の中、ただ息を殺す。
「ああ……今あの方にも了承を取った。ターゲットを変更するとな……」
ベルモット、キャンティ、コルンに向けて呼びかける声が静かな車内に響く。
「で?どこなの、次の標的は」
「場所は米花町5丁目……毛利探偵事務所だ」
『っ……』
……最悪だ。
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途中でベルモットを拾って毛利探偵事務所に向かう。ベルモットのバイクは後で末端が回収に来るらしい。後ろからキールの車が追いかけてくる。
「でも本当なの?あの毛利小五郎がキールの靴の裏に発信器と盗聴器を取り付けたって話……」
「ああ……間違いない……」
ベルモットの声は少しだけ暗い気がする。私は何か言う気にもなれなかった。
どうやら壊したのは発信器だったらしい。盗聴器は……何となくジンがやろうとしていることは察した。
座席に投げ出していた手にベルモットの手が当たった。視線を向けると、一瞬だけキツく睨まれた。本当に危険になればどうにか止めろ、とそういうつもりだろうか。約束はできないけど、というように私は肩をすくめた。
探偵事務所の向かいのビルの屋上に上がる。キャンティとコルンはライフルを持って。2度もお預けをくらったのだ。撃ちたくてたまらないだろう。
屋上の柵越しに2人がライフルを構える。
「……やれ」
「あいよ」
ジンの指示を聞いて、キャンティが引き金を引いた。撃たれた弾はテレビのアンテナを吹き飛ばした。
「キャハハハハ!素直な男だねぇ……TVアンテナ吹き飛ばしたら面見せてくれたよ……」
「アイツ、耳……何か入れてる……」
「どうせ……」
ベルモットはどうなのかわからないけど、私と彼女以外の他の4人は毛利小五郎が盗聴器の音を聞いてると思っているらしい。
「聞こえるか?毛利小五郎……」
ジンは盗聴器を取り出して、それに話しかけ始めた。本当に最悪の場合、あの男は頭を撃ち抜かれるだろう。それはさすがに見たくなくて私は後ろの方へ下がった。