第64章 ブラックインパクト
ベルモットと取引をした以上あの少年には手を出せない。だから、あの車のことも報告はするべきではないだろう。
それでも気になるから、しばらくその車の様子を見ていた。すると、車から誰かが……やっぱり。江戸川コナンがおりてきた。そしてそこに近づく人。傘をさしているせいで上からは誰かわからない。でも、知り合いのようだ。
電話の向こうでは最終確認が終わったようで、車が走り去る音が聞こえた。にしても……屋内のせいか、ノイズが入って時々途切れてしまう。
その数十秒後。江戸川コナンが傘をさしている人物の腕を引いて車に乗り込んだ。傘を閉じる瞬間にちらりと見えた顔は……FBIのジョディ・スターリング。そして、黄色のビートルのドアが閉まるとほぼ同時に反対車線を走り去っていくキールの車。
もし、慌てて車に戻った理由がキールだとしたら……近づいてくることがどうしてわかった?
「……そっちの様子は」
思考を巡らせていると、耳に当てていたスマホからジンの声がした。
『特に問題ないよ。話は終わったの?』
「ああ……てめぇはアジトで待機だ」
『……』
「すぐに動けるようにはしておけ」
『はぁい……』
切れた電話に小さくため息をついた。そして、近くの駐車場に停めていた自分の車へ向かった。
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一度自室に戻った。すぐに出れるようにとは言われたものの、計画がうごくのは13時だ。指示があるとしたらそれ以降だろう。
ここに戻るまでずっと考えていたが……一番可能性があるのは盗聴器や発信器の類がキールに仕掛けられていること。キールがあの駐車場にいた時に電話越しに聞こえた会話はノイズが入っていた。でも、彼女が去った後にジンと話した時は、なんのノイズもない声が聞こえた。
だとしても、仕掛けたのはいつだ……?
―毛利って探偵に調査を……
そういえば昨日、ジンがそう言っていた。
あの少年もそれに同行していたのなら、そのタイミングで仕掛けた?でも、どうして?これまでにキールと面識があったのだろうか?何もないのに疑う理由はないだろう。
『あー……』
頭が痛い。考えたところで推測の域を越えることはないし……にしても、どうやってそれを知らせよう。このままじゃターゲットはあの少年に……
『……違う』
誰かが仕掛けられているものに気づいたら……次のターゲットになるのは毛利小五郎だ。