第64章 ブラックインパクト
今回のターゲットは土門康輝。出番があるかなぁ……なんて少し楽しみにしてたのに。
『……また見張り?』
「文句言うな」
前夜に言われた指示に気を落とすなという方が無理な話だ。
『だってみんな集まるんでしょ?キャンティもコルンもキールも……私だけ仲間はずれ?』
「……あの野郎は来ねえよ」
『だからって……!』
あの野郎っていうのはバーボンのことだろう。別にそれはいいんだけど……バーボンの1番の仕事は情報収集だし、今回の計画にはいなくても問題ない。まあ、土門の父親の不倫疑惑のネタを探し出してきたのはバーボンなんだけど。
そのネタを使って単独インタビューを承諾させ、狩場へ誘い出すのがキールの役割。その頭を撃ち抜くのはキャンティかコルン。
それはそうと、ただでさえコードネームを持つメンバーが集まることは少ないのにその場に立ち会えないなんて……。
『……』
ジッ……とジンを見つめる。私だって何かやりたい。最近の任務は張合いがないし。
「……1つ目の策が上手くいかねえようなことがあれば、その時は呼んでやるよ」
『本当?』
「……失敗することを期待するな」
『してないよ……』
余程の邪魔が入らない限り失敗することなんてないだろう。もし、FBIとか……
『あ、キールの件は聞いた?ストーカーかもって話』
「ああ……毛利って探偵に調査を依頼したらしい」
『えっ』
「なんだ」
『あ……いや、別に……』
「……まあいい。約束の時間は明日の10時。少し前から張ってろ」
『わかった』
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『もう……本当に』
集合場所の屋内駐車場があるビル。その屋上で周囲を監視しているのだが。天気は雨。毎回毎回……所謂雨女というやつなのだろうか。昼前になれば雨は止む予報だけど。
10時を少し過ぎた頃、キールの車が駐車場に入っていった。
万が一の時に困るから。そう言ってウォッカと電話を繋げたままにしてある。ジンは機嫌を悪くしたように見えたけど。でも、これで会話は聞ける。
スマホを耳に当てながらビルの周囲を見回した。
『なっ……』
また黄色のビートルが路肩に止まっている。フードを被った大人が出てきて……車の調子でもおかしくなったのか?でも、偶然だとは思えないし……あの少年も乗っているのだろうか。