第63章 取引
ジンside―
ベルモットの容態の確認を。そんな連絡がラムから来たのはつい先程。気になるならてめぇで行け、そう言い返せない代わりに盛大に舌打ちをした。ウォッカが脅えてたが俺は悪くねぇ。
ベルモットのいる医務室へ行く。部屋に入るとそこにいた医者はそそくさと姿を消した。ベルモットは俺と視線が合うと口角を上げて笑った。いつもこの女がつけている香水の匂いが鼻につく。
「……今日は客が多いわね」
「体は」
「心配してくれたの?嬉しいわ」
「ラムからの指示だ。俺は気にしてねえ」
「冷たいわね……体はもう大丈夫よ。あと数日もあれば任務にも就けるわ」
「そうか」
確認は取れた。もうこの場所に用はない、そう思って踵を返しかけた。
「マティーニはずいぶん変わったわね」
「……どういう意味だ」
「あら気づかない?ずっと近くにいるから気づけないだけかしら?」
「……」
「ちょっと気をつけた方がいいと思うわ」
「……そうかよ」
まだ何か言いたげな様子だったが、それは無視して医務室を出た。
部屋に戻ると、アイツはベッドの上で体を丸めて寝ていた。明らかに外出したままの格好で。
「おい」
どうせ化粧も落としてない。以前、そのままにして放置したら翌朝散々文句を言われた。理不尽すぎる文句だった気がする。
もうそんなのは御免だ。だから、声をかけているのに目を覚ます気配はない。
「起きろ」
声をかけるだけじゃ駄目か……仕方なく肩をそっと揺する。すると、ベルモットの香水の匂いがした。
客が多いと言っていたが……コイツもベルモットに会いに行ったのか?別に問題があるわけじゃねえ。が、何かあったのも間違いねえ。
そうでなきゃ、ベルモットがあんなことを言う理由がわからない。
確かに外出していく頻度は前に比べて多くなった。しかも、ほぼ毎回変装をしていく。暇があればパソコンやスマホに向き合っているし、確認しようにもロックはかなり厳重だ。
「……何を隠してる」
知られたくないことの一つや二つ、誰にだってある。それが組織にとって不利益なものでなければ……裏切りに値するものじゃなければ責める気はないが。
『ジン……ごめん……』
夢を見ているだけなのか、本当に謝らなければならないような何かを抱えているのか……この寝言の理由を問い詰めるのはどうも気が進まない。