第63章 取引
亜夜side―
『ん……』
目を開けて何度か瞬きをする。詳細は覚えてないけど、それでも嫌な夢を見た気がして、あまり気分のいい目覚めではない。それでも、いくらか体も楽になったような……そう思いながらスマホの画面を見た。
『えっ、嘘……こんな時間……?』
もう既に夜遅い時間。十分すぎるくらい寝入っていたらしい。
「……俺は何度も起こしたからな」
背後から声が聞こえて勢いよく起き上がった。そこにいたジンは寝る準備か整っているようだった。
『そうなんだ、ごめん……』
「……」
『あ、起こそうとしてくれたんだよね、ありがと……シャワー浴びてくる』
ジンの目が睨むように細められて、それから逃げるようにバスルームに入った。
本当に隠しきれるのだろうか……冷たい視線に射抜かれただけで、全てを見透かされたようなそんな気分になる。
『大丈夫……』
そう呟かずにはいられないほどに。
全身流し終えたがジンと顔を合わせるにはまだ心の準備が整わなくて、ただ無駄にお湯を頭から浴び続ける。
きっとこの先、嘘はどんどん増えていく。それまでの嘘を隠すだけじゃなくて、また別の新しい嘘も。
私はジンと一緒にいてもいいんだろうか……そんな疑問と罪悪感に押しつぶされそうになりながらバスルームを出た。
何か聞かれるんじゃないかと思うと心臓の音がうるさくなっていく。でも、ジンは私にちらりと視線を向けただけでそのままベッドに寝転がった。
私は結構寝てしまったから今すぐには寝付けないだろうし……どうしよう。
「寝ないのか」
『うん……たぶん寝れないから。何か調べ物とかあればやっておくよ?』
「……来い」
ジンは体を起こしながら言った。拒む理由もないからゆっくりベッドに近づ気、ジンの横に腰を下ろした。
「明日の予定は」
『……特に何も。任務もないし』
「それなら立てなくても問題ねえな」
『えっ……っ、ん……』
強引に重ねられた唇。すぐに舌が割って入ってきた。後頭部に回された手には力こそ入れられてないものの、逃げることは許されない。
そういえばしばらくしてなかったな……そう思ってこのまま流されることにした。完全にスイッチが入ったし……それに、いつが最後になるかわからない。
だから、貪るように欲を受け止める。でも、好きの言葉を口にすることはできなかった。