第63章 取引
『あら、物騒なもの持ってるじゃない』
「あんな誘い出し方しておいてよく言うわ。警戒しないわけないでしょ」
『素直に着いてきてくれたじゃない』
「誰かに聞かれていい話ではなさそうだったから」
『確かにそうだわ』
ベルモットから向けられる明確な敵意。いつもだったら口元にかろうじて笑みは浮かべられているのだけど、今はそれすらもない。
「どこから聞いてたの?」
『ほとんど全部かしら……カルバドスがあの場所に待機してから、その遺体が運び出されるまで』
「カルバドスに会ったのはいつ?」
『当日よ。貴女が協力者にするなら彼しかいないと思ったから……駐車場で時間潰しながら待ってたわ』
張り詰めた空気の中そう答えた。上空を飛行機が飛び去っていく音が聞こえる。
「それで……取引ってなにかしら」
『もっといろいろ聞かれるかと思ったのに』
「本題はそっちでしょ。さっさと話を済ませて帰してちょうだい」
『その前に私にもいくつか聞かせてくれる?』
一度正面を向いて小さく息をつく。再度ベルモットの方を向いて口を開いた。
『狙いはシェリーで間違いないわよね?』
「……ええ」
『殺すつもりだった?」
「そうよ。あの女は生きてるべきじゃないわ」
『組織から逃げたってだけじゃないでしょ?あの時言ってた愚かな研究ってなんのこと?』
「……」
その問いに返事はなかった。期待はしてなかったけど。でも、シェリーが関わっていた研究は1つしかないはず。
『あの薬と何か関係がある?』
「っ……貴女、どこまで知ってるの」
『さあ……あ、でも』
あの状況から考えて、そのことはきっとベルモットも知ってる。今ここで話しても問題ない。
『一度、あの薬のマウス実験の結果を見せてもらったことはあるわ。一匹だけ、幼児化したマウスをね』
「……」
『そのことと今回の情報を照らし合わせて出した答え……シェリーは幼くなって生きてるってことで間違いないでしょ?』
「……」
『それと、江戸川コナン。彼もまた、姿を変えてしまった青年……だからguy。それに、あの子は私たちのことを知ってるのね』
ベルモットが私を睨む。言葉を選び間違えたら引き金を引かれそうだ。
「……あの子には手を出さないで」
『それなら貴女も、シェリーに手を出すのはやめてくれる?』