第63章 取引
『これでいいか……』
得た情報を整理してやっとまとまった。人目につかないように気をつけていたからかなりの時間がかかった。でも、これだけのものがあれば、きっとうまくいくはず。
ベルモットはアジト内の医務室にいる。あの満月の日、ジンの車に乗せられて帰ってきた彼女は傷だらけだった。アバラ3本にヒビと右の太ももに弾丸1発。頬も切れていた。
何日か経って怪我も落ち着いたらしい。それでもしばらくは任務につかないらしいけど。
私はベルモットと話がしたくて医務室へ向かった。
医務室に入ると、そこにいた医者は察したように立ち去る。目当ての人はベッドの上でスマホをいじっていた。私が近づくと顔をあげる。
「あら、マティーニ」
『体調は?』
「ほとんど問題ないわ。痛み止めがあれば歩けるし」
『よかった。じゃあ気分転換にドライブでもどう?』
「……そうね。退屈してたところだし」
そう言ってベルモットはベッドから出てきた。
最低限のメイクはさせて、と言われたから一度ベルモットの部屋に行く。すぐ済ませるから、と部屋の中には入れてもらえなかった。
たぶん、ドライブなんていうのは建前で、本当の目的は別にあることに勘づいたからだろう。人前で話せるような内容でないことにもきっと気づいてる。
数分後、部屋から出てきたベルモットは小さなバッグを持っていた。並んで歩きながら駐車場へ向かう。その間、お互いに無言だった。
「それで、何が話したいの?」
車を走らせ始めてしばらく。ベルモットが口を開いた。
『ずいぶん派手にやられたみたいだから気になって』
「……」
『カルバドスのことも……キャンティがものすごく怒ってた。貴女の立場じゃなければ殺されてたわ』
「……仕方ないじゃない。男1人抱えて逃げられるわけないでしょ」
『そうね。両足の骨を折られれば無理な話よね』
「ええ……」
『それに予想外の出来事が立て続けにあったみたいだし』
含みのある言い方をあえてする。そして、目的の場所について車を一度止めた。そこは例の港。ここまですれば、嫌でも気づくはずだ。
「あ、貴女、まさか……」
『取引しましょう、ベルモット……いや、今はシャロンと呼んだ方がいいかしら?』
そう言って微笑む。次の瞬間、2丁の拳銃がお互いの頭に向けて構えられた。