第62章 探りを入れる
「マティーニ、こんなところで何をしてるの?」
『私だって貴女に聞きたいわ……ベルモット』
後ろに突きつけられていたであろう拳銃が下ろされる気配した。私も手を下げてゆっくりと振り返った。
『なんだ、素顔じゃないのね』
そこに立っていたのは新出……の姿をしたベルモット。背が高いせいで若干見上げるような感じになった。
「貴女がいたせいよ。仕方ないでしょ」
新出の顔からベルモットの声がする。雰囲気もベルモット。変装だとわかっていてもちょっと……部屋の暗さも相まってちょっと不気味。
『ねえ、顔か声か……どっちか変えて』
「……これでいいですか?」
ふっ……と一瞬にしてベルモットの雰囲気が消えて、新出に切り替わる。本当、何回見てもすごいと思う。
「用がないなら出ていってもらっても?」
『……何をする気なの?任務?手を貸そうか?』
「……貴女が知る必要ありません」
『FBIにつけられているなら、頭数が多い方がいいと思うけど?』
「必要ないって言ってるでしょ。もう手配済みよ」
ベルモットの声で返事があった。ビリッと音がして、変装が解かれる。
『そう。残念』
これ以上居座ってももう収穫はなさそう。それだけじゃなくて、ベルモットが殺気じみた雰囲気を放っているせいもある。
『じゃあ、帰るわ』
「このことは誰にも言わないでもらえるかしら?」
『きっと理由を聞いても教えてくれないわよね……わかったわ』
「それと……絶対に邪魔をしないで」
今日1番暗くて威圧的な声で言われる。
『何もしないよ』
「ならいいわ。じゃあね……鍵は閉めて行って」
『はーい。あ、FBIもここに入り込んだみたいだから気をつけた方がいいと思うよ。多分盗聴器とかはないと思うけど』
それだけ言い残して部屋を出る。もう足音を気にする必要はなくなった。普通に歩いて、それでも外へ出る時は少し気配を殺して。鍵はしっかりと閉めた。
結構時間をかけてしまった。店の明かりも少なくなってかなり暗い道を歩く。
ベルモットが行動を起こすのはいつなのか、そして手配済みの協力者は誰か……早めに割り出したい。
彼女のすることをあえて私が邪魔をする必要はない。FBIが絡んでくる時点でスムーズに事が進むとは思えない。が、それでも情報は欲しい。今後の動き方を考えたいから。