第62章 探りを入れる
30分後。尾行をまいて再び新出病院の前へ。よし、車もない。
尾行をまいてる最中に買った手袋をはめる。そして、伸ばしたヘアピンを鍵穴に差し込んだ。少し動かすと、すぐにカチャリという音がする。もう一度背後を確認して、少しだけ開けたドアの隙間に体を滑り込ませた。院内に入ると病院特有のにおいに包まれる。
あのFBI、ここに入り込んだな……鍵開けがスムーズにできたのも、多分閉め方が甘かったんだと思うし。そこまで手慣れてないのか、私の姿に気づいたからなのかはわからないけど。
スマホのライトで行く先を照らしながら1歩ずつ、ゆっくり進む。できる限り足音を忍ばせるが、それでも微かにヒールの音は響いてしまう。
受付を通り待合室を抜け……ある部屋の前で足を止めた。少しだけドアが開いていたから。
ドアの取っ手に手を伸ばし、そっと引く。中の様子を見て思わず笑みが零れた。
机の上にはいくつもの機材。パソコンだったり盗聴器の受信器。そして、机の一部分は不自然にスペースが空いている。A4くらい……いや、もう少し大きいかな?書類か何か置いてあったみたいだ。灰皿には数本のタバコの吸殻。彼女がよく吸っている銘柄のもの。くわえる部分には口紅がついている。ハンガーには白衣と女物のワンピース。
これで確信できた。あの男は変装したベルモットだ。
盗聴器はなさそうだな……そこまでリスクを犯して長居はしてないだろうし。部屋をぐるりと見回すと、壁に貼り付けられたダーツボードに目が止まった。
そこに留められた3枚の写真。江戸川コナンと毛利蘭……そして、シェリーの写真。
シェリーの写真には大きくバツが書かれている。ベルモットの狙いやはりシェリー……?
それももちろん気になるのだが……もう2枚の写真に書かれた文字も。蘭ちゃんの写真にはAngel……コナン君の写真にはCool guy。
いつだったか、ベルモットが言っていた天使……それって蘭ちゃんのことなんだろうか。そして、guyの文字。少年ならkidのはずだ。
結構な収穫は得られたが、おかげで頭がパンクしそうだ。ここから出て情報を整理しないと。
後ろ髪を引かれるような思いで、そのダーツボードから目を離そうとした。しかし、背後に感じた気配。
「Freeze」
振り返ろうとしたが聞こえた声とカチャッという音に動きを止める。私は大人しく手をあげた。