第62章 探りを入れる
力任せに蓋を開けたせいで中身が飛び散った。ケースに残ったのは数本。
『はぁ……』
さすがにぶち負けたヘアピンを放置するわけにもいかず、渋々としゃがみこんでヘアピンを拾い始めた。
街灯の真下だから、自分で影になってよく見えない。スマホのライトで照らしながら拾えるだけ拾う。
不意にこちらへ向かってくるヒールの音がした。それは私のすぐ近くで止まった。
「あら貴女……」
その声に聞き覚えがあって顔を上げる。
『あ、えっと……ジョディ、さん?』
「Yes!また会いましたねー!亜夜さんでしたかー?」
『はい。覚えててくれたんですね』
「もちろんでーす!こんなところで何をしてるんですかー?」
『ああ……ヘアピン落としちゃって。ジョディさんこそ何を?』
「Mr.新出に用事があったんでーす。でも今はいないみたいだから出直すことにしまーす」
『……そうなんですね』
見える範囲のヘアピンを拾い終えて立ち上がった。まだ落ちているかもしれない数本は諦めよう。ピッキング用に3本くらいあればいいんだから……でも、今日はやめた方がいいだろうか。近くに他のFBIがいるかもしれない。
いや、次無人になるタイミングがいつになるかわからない。やるなら今日中だ。
『それじゃあ私はこれで』
とりあえずこの女をここから遠ざけないと。そう思ったのだが。
「Oh!この時間に女性1人は危険でーす!送っていきましょうかー?」
この姿ってそんなに弱そうに見えるんだろうか。さっき毛利小五郎にもそう言われたし……いや、あっちは多少の下心があったかもしれないけど。
『……ジョディさんだって女性でしょう?』
「私は大丈夫ね!」
……FBIだし?それなりの護身術は身につけてるでしょうし?大丈夫でしょうけど?なんて心の中で呟いた。
『……何かあったら交番に駆け込みます』
「そうですかー。気をつけてくださいねー!」
思いの外あっさり引き下がる。そのままそれぞれ別の方向へ足を向けた。そして100mほど歩いたところで振り返る。既にジョディさんの姿はない。
つけられる……かもな。久々に緊張する相手だ。とはいえ、尾行をまけないとも思ってない。私がすべきなのは、如何に上手く姿を暗ますかだ。そしてここへ戻ってこないと。
そういえば……彼女から微かに消毒液の匂いがしたような。