第61章 忠告
私とベルモットの間の空気がピリついている。話題は逸れたけど、先程以上に上辺だけの会話だ。その空気を上手く受け流したくて、ついカクテルを飲むペースが上がった。
「早いんじゃないの?」
『ん……そうかなぁ……』
「泊まっていったら?同じ部屋でよければだけど」
『だいじょうぶ……ジンが来てくれるの……』
そうだ、連絡しなきゃ……のろのろとスマホを取り出して番号をタップしていく。さすがに何度もかけている番号だから間違えたりしない。
3コールほどで電話が取られた。
「……遅せぇ」
『ごめん……今から来れる……?』
「……10分で降りてこい」
『はぁい……』
スマホをバッグの中に戻す。
『じゃあね、今日はありがと』
「……気をつけて行きなさい」
『ん』
椅子からおりると視界がグラッと揺れる。やばいかも……でも、10分で行かなきゃ……意識は比較的はっきりしてる。足元は少しばかり覚束無いけど……ピンヒールのせいで余計に。
バーを出て廊下を壁寄りに歩いていく。エレベーターまで辿り着けばいいや、最悪ジンに連絡しよう。
ぼーっとした視界に写った馴染みのある姿。それはゆっくり私の方へ近づいてくる。
「ずいぶん酔ってますね?大丈夫ですか?」
『……だいじょうぶ。じゃあね』
それだけ言ってすれ違おうとしたけど、バーボンに手を掴まれて足を止める。
『離してよ』
「この程度の力、普段なら難なく振り解けるでしょう」
『……わっ』
腕を思いっきり引こうとしたけどそれより先にバーボンにグッと引かれて、抵抗もしないままその胸元に飛び込んだ。
「今の自分の状態を理解してますか?してないでしょう?」
『知らない、離して』
「顔も真っ赤、瞳は潤んでて足元は覚束無い。そして、この無防備な背中……」
『っ、う……』
外気に晒された背筋をバーボンの指がすーっとなぞっていく。ゾワゾワしたものが這い上がってくる感じがして、バーボンを睨んだ。
「そんな顔しても逆効果ですよ」
今度はスリットの間から覗く太ももに手が這う。押し退ける……そう思っても胸板に当てた手に力は入らない。
「会ったのが僕でよかったですね。そうでなければ今頃、知らない男にいいようにされてますよ」
『そんなことない……』
「へえ……」
バーボンの指が肩の一点に触れた。